大量生産・大量消費の結果として、大量に廃棄されてしまう服たち–– ちょっとした日常にも、わくわくしたり、キラキラしたり、心が晴れやかになる瞬間を与えてくれるファッション。しかしながら、ファッション産業は、エネルギー問題、土壌汚染、ごみ問題や労働問題など、世界規模で大きな課題を抱えていると言われています。
日本では環境省が「サステナブル・ファッション」の特設サイトを公開。ファッション業界が抱える課題や、課題解決に向け生活者ができること、アパレル企業に期待することなどを、親しみやすいイラスト、表やグラフ、企業の事例などを用いてわかりやすく紹介しています。
今回Life Hugger編集部では、サステナブルファッションの実現にむけ、さまざまな働きかけを行なっている、環境省の「サステナブル・ファッション タスクフォース」チームの皆さんに、対談形式の取材を行いました。
対談に参加していただいたのは、国立公園課国立公園利用推進室の岡野隆宏室長をはじめ、清家裕課長補佐、福田朋也審査官、金井塚彩乃さんです。日本のファッション業界が抱える課題やその解決のために私たちができることなどについてお話を伺いました。
サステナブルファッションで大切なのは、人と企業のコミュニケーション
服を購入する前に、企業のメッセージに耳を傾け立ち止まって考えてみる
岡野さん:ファッション産業の抱える、CO2排出量やごみ問題などの一番大きな原因は、やはり「大量生産・大量消費・大量廃棄」です。今日本で売られている98%は海外生産の服です。そのうちの68%は燃えるごみとして廃棄されています。まずは、私たち生活者の一人ひとりがこうした問題に対して「自分に何ができるのだろうか」という課題意識を持つ必要があります。
金井塚さん:サステナブルファッションという概念自体は広まってきてはいますが、いまだに現実社会にある安価なファストファッションを手に取ることをダメだとも言えません。こうした課題は、環境省だけでなく企業や業界構造全体を変えていく必要があるのではないでしょうか。
岡野さん:良質なものづくりが行われれば、継続的に利益を確保しながら環境や社会課題も解決することができます。そこを目指すためには、まず企業理念と商品価値に共感してもらえるようなコミュニケーションが必要です。
清家さん:たとえば、私の地元にあるパタゴニアの店舗には「必要ないモノは買わないで」というメッセージが掲げてあり、そういった掲示があると、目の前の服は今自分にとって本当に必要なのかを真剣に考えて購入するようになりますし、その企業理念にも共感しますね。
岡野さん:オールバーズもCO2排出量の見える化など、ビジュアル的にも訴えかけてくるものがあります。誰もがちょっと立ち止まり、環境について考えるきっかけになる、そういうところがいいなと思います。
サステナブルファッションのトレンドを生み出すのは、生活者の発信力
福田さん:SNS時代になってから、ファッショントレンドは企業発のものだけでなく、消費者サイドの「これがいいよね」という動きやメッセージから、流行が生まれてモノが売れるといった傾向が見受けられます。
清家さん:企業のやりたいことや、やらなきゃいけないことが伝わってくると、それに対して支持する・したいという人が出てくる。その声が企業に届くと「じゃあもっと具体的なかたちにしよう」となってくるというのはありますよね。
金井塚さん:そのために、小さなことでもいいので、自身の考えや、商品やサービスに対する思いをSNSで発信したり、実際の購買行動で示したりすることは、企業のモノづくりやサービスに影響を与えるために私たちができるアクションの一つです。
岡野さん:ファッションのサステナビリティは、今後、既存のビジネスモデルからどうやってトランスフォーメーションしていくのかにかかっています。それを実現していくためには、生活者と企業がお互いにしっかりコミュニケーションを図ることが重要です。そんな両者の思いを実際の行動につないでいくため、具体的なアクションを示していくことが、我々、タスクフォースチームの役割だと考えています。
多様なライフスタイルの今、ファッションにもダイバーシティを
清家さん:今は昔と違ってファッショントレンドも多様化しているように思います。社会や個人のライフスタイルにもダイバーシティがある現代、ファッションのあり方も人それぞれです。自然素材を追求する、古着を取り入れる、自分だけの1点モノを探す、リペアしながら長く使っていくなど、一人ひとりのこだわりがサステナブルファッションにつながるのではないでしょうか。
金井塚さん:そもそもサステナブルってハードルが高いと思われがちですが、単純に「大事に着る」「洗濯ネットに入れて洗う」ことなど、服を大切にすることも実はサステナブルファッションにつながる行動です。そうしたことをもっと生活者の方に知ってもらい、「できることをやる」という意識を少しずつ広げていって欲しいです。
福田さん:そうですね、いきなりサステナブルにしようと思っても具体的な行動に移すのは難しい。環境省のホームページには「アクション」という形で実践しやすい取り組みをいくつか掲載しているので、その中から、これだったら簡単にできるというハードルの低いアクションからやってみてもらえればと思います。
環境省タスクフォースチームが実践している、サステナブルな服の選び方
服が持つストーリーや個性の魅力に気づくことが、脱大量生産・大量消費につながる
清家さん:服を買うときに自分が愛着を持って長く付き合えるかどうかを毎回考えるようになりました。今まではなんとなく安易に服を買うこともありましたが、じっくり選んで買った服はその後も大事に使う傾向にあると思います。
金井塚さん:私はその商品がどこでどういう形で生産され販売されているかを調べるようになりました。以前は単純にかわいいと思った服を買っていましたが、そうした生産背景を知ることでその服に対する愛着が深まり、大切に着ようという気持ちがめばえます。
福田さん:買った衣類や靴を大切に使うという点では、最近リペアも流行っていますね。修理しながら少しでも長く使い続けるというのも取り入れてみてほしいです。
岡野さん:ライフスタイルも好みが多様な時代に、購入する服も選び方も人それぞれ違うはず。自分って何者だろう、自分に合う服はなんだろうと考えたら、選択肢は多い方がいい。大量生産品は同じような服を大量に作るので、こうした多様な個性や好みのニーズには合致していないところもあるかもしれませんね。
誰かのストーリーに自分の思いを加えて物語を紡いでいく、リユース品の魅力
清家さん:ストーリーという意味でいうと、古着などのリユース品やオーダーメイド品は一点モノと自分との出会いなので、大量生産品を買うよりも、思い入れが強くなるような気がします。
福田さん:リユース市場では、大量生産ではない服の方が価値を長く維持できます。購入時に少し値段が高いと感じても、使用した後に売ることができます。
清家さん:1着の服が自分にとっても、売る相手にとっても価値があることを、お互いで認識できるような仕組みやきっかけがあるといいですね。
福田さん:衣食住の「住」では、売却時の価値を考えた購入は当たり前に行われています。ファッションもリユース市場での価値を考え、多少価格が高くとも長く着ることのできる服を選ぶようになると、結果的に大量生産・大量消費からの脱却も見えてくるかもしれません。
清家さん:環境省としては、そんな服のリユース市場をぜひ盛り上げていきたいです。
日本のサステナブルファッションの推進を牽引している環境省のタスクフォースチームに、サステナブルファッションのために、私たち生活者ができることや、業界全体への期待について、チーム対談形式で話していただくインタビュー企画。
前半ではSNSを使った双方向のコミュニケーションの大切さや、「買う」という場面における服の選び方について話していただきました。環境省の担当者としての専門的な見解はもちろんのこと、ご自身の実体験をベースにした意見も多く、同じ生活者として共感でき、「自分もやってみよう」とすっと入ってくるお話でした。
後半では、服の「廃棄」や「リサイクル」について、生活者ができることや、ファッション業界に期待すること。また、環境省の取り組みや今後注目しているトピックについても語っていただきます。
(取材・文:わだみどり)
【参考サイト】環境省 サステナブルファッション
【関連ページ】【環境省のサステナブルファッション担当者に聞く(後編)】服を手放す時に考えたいこと
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