ロシアによるウクライナ侵攻から1年。ウクライナから国外に逃れた避難民は、800万人を超え、日本にも2月15日時点で2302人が避難しています。
母国から遠く離れた日本にやってきた彼らは、どのように地域で受け入れられ、日々を過ごしているのでしょうか。全国の中でもいち早く支援を表明し、「ウクライナ支援の官民連携モデル」をつくったと言われる佐賀県の取り組みを取材しました。
官民連携の佐賀モデルとは?
佐賀県では2022年4月4日、佐賀県、佐賀市、NPOなどの市民社会組織が共同会見を行い、「SAGA Ukeire Network~ウクライナひまわりプロジェクト~ 」の発足を発表しました。
SAGA Ukeire Networkとは、佐賀県と佐賀市、佐賀を拠点に活動するNPOなどが官民連携でウクライナ避難民を受け入れるため、2022年3月に発足。県は義援金による生活費支援や政府機関との調整、佐賀市は住民サービスや就学支援、生活物資支援を担い、NPOは物資の調達や生活支援、ビザ取得のサポートなど各団体の強みを生かして避難民の受け入れを「ワンストップ」で支えています。
受け入れについてのアンケートを通して「毎日警報が鳴って眠れない」「落ち着いた生活をしたい」「子どもを学校に通わせたい」など、ウクライナの人々の切迫した状況が伝えられる中、日本にまったく身寄りがない人も含めて佐賀への避難を希望したすべての人を受け入れられるよう準備を整えました。
日本で働きたいという希望も。孤立を防ぎ、地域全体で支える支援
現在、佐賀で暮らすウクライナ避難民は15組33人。30組を目標に、ニーズがあれば、随時受け入れる体制を整えています。ウクライナでは18〜60歳までの男性は徴兵され出国できないため、避難者は女性や子ども、高齢者がほとんどです。不安を抱えながらやってきた人々が孤立しないよう、日本語学習の支援に力を入れているほか、地球市民の会では佐賀の人々がウクライナ避難民に積極的に話しかけられるよう、ウクライナ語の会話帳を作成・配布しています。
また、戦争が長期化し、帰国の目処がたたない中、就労先を支援するため、地元企業50社以上と連携。すぐに就労につながるケースはまだ少ないですが「日本語が喋れなくても、いつか帰国する可能性があるとしても、日本の生活に慣れたら働く道もある」というメッセージを伝えています。
佐賀のみんなで力を合わせて。災害支援や国際協力のネットワーク
「2022年1月時点でウクライナ国籍の住民が1人しかいなかった佐賀県において、いち早く官民が連携して受け入れる準備を始められたのには、いくつかの理由があります」。こう話すのは、2015年から佐賀県に拠点を置く災害支援団体、Civic Force代表理事の根木佳織さん(写真:後列左から2番目)。「佐賀県は、2019年と2021年に豪雨災害が発生し、市内の関係組織が連携して、物資支援や避難所運営、在宅避難者への調査など、それぞれの機関の強みを生かした災害支援活動を実施しました。災害時にいち早く対応するには日頃の連携が不可欠で、こうした災害支援のネットワークも今回の避難民受け入れに生かされました」
また、佐賀には、長年国際協力や多文化共生に取り組むNPO法人地球市民の会や認定NPO法人難民を助ける会、認定NPO法人ピースウインズ・ジャパン、認定NPO法人テラ・ルネッサンスなどの団体が拠点を置き、ウクライナの周辺国でも支援を行っていました。
「佐賀で力を合わせれば、ウクライナから避難民を受け入れられるのではないか」。県内で国際協力を続けてきた団体が、県や市に呼びかけて、官民が連携して避難民を受け入れる体制を整えてきました。
このような官民が連携して受け入れ支援を行う動きは、佐賀県が全国で初めてのケースとして注目されています。
目指すのは誰もが暮らしやすい「多文化共生のまち」
佐賀で官民連携の動きが加速した背景には、2010年に佐賀県が始めた「CSO提案型協働創出事業」があります。この事業は、社会課題を解決する全国のCSO(Civil Society Organization=市民社会組織)を他県から誘致し、佐賀の課題解決を一緒に目指す取り組みで、2010年に日本で初めて国連公共サービス賞を受賞しました。誘致制度により進出したCSOには補助金が用意されているほか、ふるさと納税をCSO単位で募ることができます。2021年度からは企業版ふるさと納税をCSOで集められる全国初の制度も始まりました。
「戦禍を逃れて日本にやって来た人に、安心して暮らしてもらいたい。戦争が長期化し、世間の関心が薄れ寄付も集まりにくくなっていますが、佐賀には今も困っている人たちの声が届いています。また、世界には1億人以上の難民・避難民がいて、避難生活を余儀なくされています。ウクライナで高まった難民受け入れの機運を、ほかの国や地域からも受け入れる機運へつなげられたらと考えています」(根木さん)。
「SAGA Ukeire Network」 という名称には、今後の広がりを見越して「ウクライナ」という単語は入っていません。今回の活動が、外国人住民を含めて誰もが暮らしやすい「多文化共生の社会づくり」を進める一歩となるよう、たくさんの人が協力しながら知恵を絞っています。
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新海 美保
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