園芸店やホームセンターで販売している野菜の種には大きく分けて「固定種」と「F1種」の2種類があるのをご存知でしょうか。それぞれにメリット・デメリットがありますが、見た目や味が個性的でおもしろい固定種は、育てる楽しみが大きいことや私たちの「食」を未来に繋いでいくという意味でも、家庭菜園におすすめです。
そこで今回は、固定種とF1種の違いといった基本的な種の知識をはじめ、家庭菜園で固定種を利用するメリット・デメリットを解説。10年以上固定種の野菜を栽培し続けた筆者が、経験をもとに家庭菜園初心者にもおすすめな固定種野菜や、種を購入できるオンラインショップも紹介します。
固定種ってどんな種?
固定種とは、栽培した野菜から自家採種した種を育てるということを繰り返すことで野菜が持つ形質(形や色)が固定された種のことを言います。生育にバラつきがあるので大量生産には向きませんが、家庭菜園など趣味で野菜を栽培している方には魅力的な種とも言えます。
在来種と呼ばれる、日本古来から栽培されている野菜も固定種の一種で、栽培と自家採種を続けることでその土地の風土や気候に適応した種です。在来種は一般的に伝統野菜と呼ばれることもあり、練馬大根や下仁田葱など、全国各地でさまざまな品種が栽培され特産品として流通しています。
固定種は遺伝的多様性や適応性を持っているため、同じ土地で自家採種を続けることでその土地に適応した野菜に育つのが特徴です。近年では土地の伝統的な野菜の種を未来まで残して行こうとする「種の図書館」のような取り組みを始める地域もあり、生物多様性という点でも注目されています。
F1種とは
F1種とは、異なる特徴を持った2つの品種をかけ合わせて品種改良された種のことです。両親が持っている優良な形質を受け継ぐのが特徴で、形質が揃いやすく大量生産に向いているという特徴があります。
異なる品種を交配することで起こる雑種強勢によって、生育が旺盛で収量性の向上が期待できるので、ほとんどの生産者がF1品種を栽培しているのが現状です。
安定した生産に適したF1種ですが、栽培した野菜から採種しても2代目には同じ形質を持った種を採ることはできないため、自家採種には向きません。基本的には、栽培から収穫までを一区切りとして栽培します。
家庭菜園で固定種を育てるメリット・デメリット
個性豊かで自家採取も可能な固定種の野菜は、家庭菜園でこそ本来の魅力や楽しさを実感できます。
なぜ、家庭菜園を行う人に固定種が向いているのでしょうか。筆者が固定種を育ててきた経験の中で感じたメリット・デメリットを紹介します。
固定種のメリット
・見た目も味が個性的な物が多い
固定種は見た目や味が個性的なものが多く、種選びの段階から楽しさを味わうことができます。ホームセンターなどでは見付けることのできない珍しい野菜が多いので、変わった品種を育ててみたいという方におすすめです。
・生育にバラつきがあるので長く収獲を楽しめる
固定種はある程度形質が固定されているものの、多様性を持っていて生育にバラつきがあるので、のんびりと少しづつ収獲することが可能です。生育のバラつきは生産者にとってはデメリットですが、家庭菜園を楽しむ人にとってはむしろメリットの方が大きいと考えています。
・自家採種できる
固定種を育てる最大のメリットは、やはり自家採種ができることではないでしょうか。自家採種を繰り返し行うことで栽培している土地に適応した種になっていくので、農薬や化学肥料などを使用しない農法にもマッチしやすいという特徴があります。
・伝統野菜を未来につなげる
安定的な生産という点で、生産者は固定種を選びにくい現状があります。固定種での生産が減ることで、結果として在来種や伝統野菜の中には地球上から消えていってしまうモノもあります。味・形・大きさなどの基準を気にすることなく楽しめる家庭菜園だからこそ、固定種を育てて日本古来から伝わる野菜を未来に繋げていくことができます。
固定種のデメリット
デメリットは特にないですが、ひとつ挙げるとすれば固定種の苗は基本的にホームセンターなどでは販売していないので、種まきから始める必要がある点です。育苗してから定植を行う野菜などは家庭菜園初心者には負担となる場合もあるでしょう。
どうしても固定種で育てたいけれど育苗する自信がないという方は、時期になったらネット通販などを利用して苗を手に入れることも可能です。
個性豊かな品種たちを紹介
ここでは、家庭菜園でおすすめの品種とそれぞれの特徴を紹介します。
ロラロッサ レタス
「ロラロッサ レタス」は、葉先が赤く根元が緑になっているのが特徴で、柔らかくておいしいサニーレタスの一種です。結球するタイプではないので、大きくなった外側の葉から順番に収獲を楽しむことができます。プランターでも簡単に栽培できるので、畑がない人にもおすすめです。
ワイルドロケット
ワイルドロケットは、別名ルッコラセルヴァチカとも呼ばれるルッコラの一種です。普通に出回っているルッコラと比べて風味が強く、ゴマのような香りとスパイシーさがクセになります。虫に食われやすいので、気になる方は虫除けネットなどを設置しましょう。こちらもプランターで簡単に栽培可能です。
サンマルツァーノトマト
サンマルツァーノトマトは、イタリアでよく食べられている加熱調理用のトマトです。普通のトマトとは違ってゼリー部分が少なく果肉が多いので、加熱するとねっとり濃厚なトマトの旨みを味わえます。果菜類なので育苗する必要がありますが、料理好きな方にぜひ試していただきたいトマトです。固定種が買えるお店を紹介
たねの森
たねの森は、オーガニック認証を受けた農場で採種された固定種・在来種の種を販売しています。野菜以外にもハーブや花など、とにかく取り扱っている種類が豊富で、カタログを眺めているだけでも楽しい気持ちになれます。販売している種は無農薬・無化学肥料であるのはもちろんのこと、天体の動きに合わせて種まきや収獲などを行うバイオダイナミック農法で栽培された種子も販売されているのが特徴です。
【公式サイト】たねの森
自然のタネ
自然のタネは、長野県松本市で自然農法の技術の確立や、研究開発を行う自然農法国際研究開発センターが運営している種のオンラインショップです。農薬や化学肥料を使用せずに栽培して採種された固定種をはじめ、自然農法で育種された種も販売しています。できるだけ農薬や化学肥料は使いたくない、自然農法で栽培してみたいという方におすすめの種屋さんです。
【公式サイト】自然のタネ
信州山峡採種場
信州山峡採種場は、全国にある種苗会社が開発した種子の採種を請け負う傍ら、家庭菜園向けの種子もなど販売しています。家庭菜園では余ってしまいがちな種ですが、100円で40粒と少量から購入できるので、種を無駄にしてしまうこともありません。固定種やF1種など、さまざまな種を取り扱っています。【公式サイト】信州山峡採種場
鶴頸種苗流通プロモーション
鶴頸種苗流通プロモーションは、伝統野菜を途絶えさせたくないという思いから、中学3年生で起業した小林宙さんが運営する種のオンラインショップです。日本全国各地の伝統野菜を販売しているのが特徴で、取り扱っている種はすべて自家採種可能となっています。
種を求めて日本中を旅する小林さんの種にかける思いは「固定種の種の多様性を守りたい!現役大学生小林宙さんの挑戦」で読むことができます。
【公式サイト】鶴頸種苗流通プロモーション
今回は、固定種の魅力やおすすめ品種、販売しているオンラインショップを紹介しました。各地域の風土に適応し食文化を築いてきた固定種を絶やさないためにも、少しでも種に興味を持っていただき家庭菜園に固定種を取り入れていただければ嬉しいです。
いい野菜ができたらぜひ、自家採種にも挑戦してみましょう!
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角家小百合
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