「自然農」とは?農園アドバイザーに聞く、自由に楽しむ家庭菜園とハーブ栽培

多田出さん

家庭菜園で野菜やハーブを育てていると、「科学肥料や農薬、除草剤をできるだけ使いたくない」「できる限り自然な環境で栽培した作物を収穫したい」という想いが募ってくる人も多いのではないでしょうか?
自身のこだわりを存分に試せる家庭菜園だからこそ、植物本来の生命力と土の力を活用して野菜やハーブを栽培する「自然農」に挑戦してみるのもいいかもしれません。

「自然農」は、栽培のプロではない個人でも比較的取り入れやすい栽培方法です。有機肥料も農薬も一切使わない「自然農法」とは異なり、「自然農」では有機の肥料を必要最小限の使用し、野菜の本来持っている力と、土の足らない力を補いながら作物を育てることができます。

今回は、体験農園マイファーム松戸農園(千葉県)のアドバイザーで、自身も自然農の栽培実践者の多田出敬子(ただいでけいこ)さんに、自然農を始めてみたい方に向けたアドバイスをいただきました。また、せっかく育てたにも関わらず、使い方がわからず余らせてしまうことも多いハーブ類のおすすめの使い方などについてもお話しをうかがいました。

マイファームの「農園のアドバイザー」とは


全国の耕作放棄地(※)を再利用し、貸農園を展開している「体験農園マイファーム」では、農業に関するアドバイザーを「自産自消アドバイザー」と呼びます。自分で消費するものを自分で育む方法を実践しながら、利用者にアドバイスしてくれる頼れる存在です。
※耕作放棄地とは、農作物が1年以上作られておらず、作る予定もない、耕されなくなった農地のこと。

「自産自消アドバイザー歴は今年で7年目になります」という多田出さんの手がける自然農で育つ野菜やハーブは、松戸農園で見ることができます。また、多田出さんはマクロビオティック(※)の資格も有しているので、育てた野菜やハーブの活用方の知識や経験も豊富なアドバイザーです。ご自宅でも柿酢などの発酵食品づくりなど、生活のなかでの発見をベースにしたさまざまなアイデアを実践されています。木製DIYが得意なご主人と、マニュアル通りではない暮らしを楽しんでいるそうです。
※マクロビオティック(マクロビ)とは、日本の伝統食を基本とした食事で、人間と自然の調和を取り、健康な暮らしを実現する考え方。

雑草を除去せず、共生する。「雑草ガーデン(自然農)」のすすめ

マイファーム松戸体験

多田出さんがアドバイザーを担当している松戸農園に足を踏み入れた方は、まず畑の雑草の多さに驚きます。野菜づくりに取り組む多くの人にとって、雑草は「厄介な存在」であり、作物の生長を妨げる、取り除かなくてはいけない存在。そして、その雑草を除去する作業の手間に頭を悩ましているのではないでしょうか。

しかし、多田出さんは雑草をむやみに抜くのではなく、まず野菜との共生が可能な雑草と、共生が難しい抜去すべき雑草をより分けて対処するようにしているとのこと。そして、可能な限り雑草が生えたままの自然な状態に近い状態を保ちながら畑を管理しています。

「雑草は虫を引き寄せるという印象がありますが、中には自然の虫よけ効果をもつ草やハーブもあるので、すべての雑草を除去しようとする必要はありません。その場所に雑草が生えているのが自然ならできるだけそのままに、自然に近い状態にしておくのが畑の土にとっても良い部分もあります。
例えば、適度に雑草を畑に残すと土の表面が渇きにくくなります。なぜなら、雑草が土の表面の露出を防ぐことで保水効果が上がり、土がより良い状態に保たれるのです。そのため、雑草も上手く使えば、畑にとって役立つ存在になります」と、多田出さん。

多田出さん

また、畑の作物と共生可能な雑草は、冬になって枯れると土壌動物(ミミズやワラジムシなど)の餌となり、その後の微生物の活性につながります。こうした一連の流れが、最終的に土の栄養を作り出し、畑の土を良くしてくれます。

一方で、多田出さんは、畑に生えるすべての雑草を無作為に放置しているわけではありません。地下茎で増えるチガヤやスギナ、帰化雑草など脅威的に広がっていく雑草は、畑の作物の生長にも影響を及ぼすため、小さなうちに抜去しています。植物と土のことを熟知し「できる限り自然に近い状態」で、作物を収穫できるように育てていく、それが「自然農」を続けるポイントなのではないでしょうか。

自家採取の種を育てる、今の畑を未来に繋ぎたいという思い

多田出さん

多田出さんが育てて自家採取した固定種たち

自然農の実践を体感できる松戸農園では、他にも多田出さんこだわりが詰まっています。その一つが「日本に昔からある固定種(※)の種を未来に残すこと」です。松戸農園には自分で種を採る「自家採取(※)」のエリアも設けられています。多田出さんは、生命の源である種を大切にしており、野菜を育てるのも基本は種から始めるようにしているそうです。
※固定種とは、同じ品種の種を毎年採り繋いできた種のこと。
※自家採取とは、自分の育てた作物から種を採る方法。

「固定種にこだわり、自家採取しています。野菜はすぐに交雑してしまうので、場所を考えて慎重に育てて採取します。種はいろいろな表情がある。本当に楽しいし、かわいいし、きれいでしょう。マクロビの観点からみても種の栄養価は高いので、我が家では果物や野菜の種、たとえばゴーヤの種などもバツバツ切って食べています」(多田出さん)

多田出さん

自家採取を行なっている、種の栽培区画

また、種から育てた野菜や果物は「皮を剥かずにそのまま食べる」という多田出さん。大切に丁寧に育てた野菜だからこそ、余すとこなく活用したいそうです。どうしても硬くて食べられない部分などについては、野菜くずはゴミに、残渣(ざんさ)はすべて堆肥にしています。

自然の力を生かした形でゆっくり丁寧に野菜を育てているからこそ、多田出さんは野菜でもなんでも「極力、ものを捨てない」という信念を持ち、自然農と自家採取に取り組んでいます。

初心者におすすめ!栽培に手がかからず使い勝手の良いのハーブと使い方

マイファーム松戸体験
ハーブの使い方など実践経験が豊富な多田出さんに、初心者におすすめのハーブについて聞いてみました。すると「生でそのまま使えるし、栽培も簡単だから、ローズマリーがおすすめ」という答えが返ってきました。

ローズマリーのお手入れは、少し放っておくくらいでも大丈夫だそう。植え付けは春か秋で、どの種類でも栽培の難易度も同じだとも。ただ、剪定のしやすさを考えたら立ち木のほうがおすすめです。

剪定はいつも梅雨前と夏過ぎて秋くらいに、樹形を保つのと、間引きを目的として行います。湿度の高いシーズンであれば、枝と枝の間が開くくらい思いきり切っても良いとのことです。また、枝から小さな芽が出ているようならば、芽が先端で見えるくらいまでに思い切って切り落としても良いでしょう。

「ローズマリーは丈夫で一本だけで育てても花が咲くハーブです。枝を切ったローズマリーは、堆肥として利用できます。枯れても消臭効果は続きますから長い間利用できます。私は防臭効果を期待して、作業で履く長靴のなかにローズマリーの枝を入れています。料理にも使えますし、アロマ・防臭・防虫効果もあります。生でも使えるので、乾燥させる手間が要りません」(多田出さん)

畑は創造力を満たしてくれる場所。個性ある野菜づくりをしているマイファームの農園

マイファーム松戸う農園

畑の隅に設置されている残沙を入れる箱

多田出さんは各自の畑から出た野菜くず(枯れた葉、抜いた根っこ、食べられない実など)残渣について「食べるものは持ちかえるとして。それ以外の部分も、自分の畑から出さないほうがいいですよ、と話しています」という自消自産アドバイザーとしての持論をもちます。

「収穫物以外もすべて副産物という意識をもって欲しいと願います。畑で出たものはすべて自分の畑で処理する。自分のものに責任をもつ。例えば、雑草を抜いたら畝間(うねま)に置いておくことを薦めます。土壌動物と微生物の分解でいずれ肥料になリます。抜いた雑草を置いておくことで、どこからか飛んできた種も、土に直接触れることがないため根を張りづらく、次の雑草防止にもなります」

小さな種から収穫ができたときの感動を味わって欲しくて、苗から始めるか種から育てるか迷っている人に「種から始めてみませんか?」と声をかけることもありますが、こうしなくてはダメなことはないので、最終的には自身で選んで自分に合ったやり方を見つけてもらいたいそう。そして「何よりも、野菜を作ったり、暮らしの道具を作ったり、ごみを分解したり、畑がある暮らしの安心を感じてほしい」と、多田出さんは語ってくれました。

多田出さん

農園内のコキアが枯れたらコキアでほうき作りや、サツマイモのツルでクリスマスツリーを作ったりも

編集後記

自然農法・自然農、どちらも地力(土壌そのものの力)を必要とする栽培法なので、雑草などを抜き切った裸の状態の畑で始めようと思ってもなかなか難しいことです。雑草も含めた全ての存在が自然の中で何かの役割を担っているということを、多田出さんの畑から学びました。

また、「自分の畑からは極力ゴミを出さない。出たものは再利用する、自然に還す」という多田出さんの信念が、マイファーム松戸農園の隅々に行き渡り、畑の中の循環を作り出していることも印象的でした。
多田出さん
マイファームは、自身の区画のなかで、限りなく自然農に近い手法を実践できる貸農園です。全ての農園に多田出さんのような経験豊富なアドバイザーがいて、家庭菜園に必要な知識やノウハウを教えてくれるので、少しでも自然農に近い形での野菜作りにチャレンジしたい方にもお勧めです。家庭菜園や自然農に興味のある方は、ぜひお近くのマイファームの農園に足を運んでみていください。

    マイファーム松戸体験農園
    〒227-0053 神奈川県横浜市青葉区さつきが丘37番3
    ※見学は随時受付、公式サイトからの予約が必要です。
    ※アドバイザーの出勤は、サイトのカレンダーでチェックすることができます。


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七尾びび

家庭菜園士。マイファーム松戸農園、循環型でたい肥づくりに特化した松戸千駄堀農園の農園・自産自消アドバイザー。農業系ライター。