【畑の雑草とは?前編】実はそんなに強くない?農生態系を見つめる森田亜貴さんに「雑草管理のコツ」を聞いてみた

都会でも田舎でもどこででも見かける「雑草」。庭を持っている人や家庭菜園を楽しむ人にとっては、雑草は厄介な存在だと感じる人も少なくないでしょう。ネガティブなイメージがある雑草ですが、本当に悪いものなのでしょうか。京都大学農学部で雑草学を学び、土の中の微生物や土壌動物をも含めた農生態系(※)を見つめながら野菜作りをされている森田亜貴さんにお話を伺いました。

※農生態系:農耕地において、農作物やその他の生物、気象、水などの無機的要素がさまざまな組み合わせで相互に影響しあい、時間と共に変化する動的なシステムのこと

話者プロフィール:森田亜貴(もりた あき)

「サステイナー」の屋号で、持続可能な食と農を考えるための講習会や読書会などの事業を展開。株式会社マイファームの体験農園の自産自消アドバイザー、町田市にある「あした農場」の体験農園nou-fuの栽培アドバイザー。京都大学大学院農学研究科修了。専攻は雑草学。

雑草とは?

今回は、森田さんが自産自消アドバイザーをされている横浜さつきが丘農園でお話を伺いました。畑を見て最初に驚いたことは、雑草の多さです。

あちらこちらに雑草が生い茂っている畑。

家庭菜園をする人の多くは、雑草は除去すべきものだと考えているでしょう。雑草といってもいろいろな種類がありそうですが、具体的にどのような植物なのでしょうか。

「雑草の定義には諸説あるのですが、私は、攪乱(かくらん)が起こって植生(しょくせい)が破壊されたところで生育できる性質を持っている植物を雑草と捉えています」(森田さん)

攪乱とは、生態系を破壊し、その維持に影響を与える現象のことで、畑のように人間が耕したり、道端のように人が踏んだりするところでは、雑草がいち早く生育するそうです。また、植生とは、ある場所に生育している植物の集団のことを言います。

森田さんが畑の中を案内してくれました。

雑草は自然界では強くない?

雑草というと強いイメージを持っている人も多いと思いますが、実は自然界では強くないそうです。

「雑草は強いと思われがちですが、今まであった環境が壊されたところでいち早く生育できる性質を持っているのが雑草であり、雑草の多くは、森林の中や、山野草がたくさん生えているところでは他の植物に負けてしまい決して強くありません。自分たちの生きながらえる場所が壊され、その場所に適応しているのが雑草です。

畑では人が耕すという攪乱が定期的に起こり、その環境に適応した雑草が繁茂します。しかし、人の手が入らない自然の中では弱いのです」(森田さん)

そのため、タンポポは林道の脇や畑、公園などでは見られますが、人が立ち入らない山の中では育たないのです。

畑の通り道の脇にはタンポポがたくさん咲いていました。

畑にとって「有害な雑草」とは?

畑にとって有害な雑草にはどのようなものがあるのでしょうか。

「まず、成長が早くて野菜に日陰を作るほど大きくなる雑草は、気づいた時点で抜いたほうがよいでしょう」(森田さん)

それから、身近に生えている植物の中には、外国から入って来て、環境や私たちの生活に被害を及ぼす恐れのある「特定外来生物」に指定されている雑草もあるそうです。このような雑草は、放置すると農業生産に大きな被害をもたらす可能性があるので、特定外来生物に指定されている雑草を環境省のHPなどで確認して、知識を持っておく必要があるとのことです。

【参照サイト】環境省 特定外来生物等一覧

日本はアジアモンスーンの気候帯に属し、空いている地面や、むき出しの土があったらすぐに草が生えてきます。最初は一年草(芽が出てから1年以内に一生を終える草)が主体ですが、次第に多年草(何年も生き続ける草)、そして低木が入り込み、最終的には森林へと植生が移り変わる風土です。そのため、畑の雑草を放置しておくと、徐々に生える植物が変わり、野菜作りに適さない植生になってしまい、野菜作りを行うことが難しい土地になってしまいます」(森田さん)

抜くべき雑草とは?

雑草の問題は大きく分けると、①自分の育てたいものと競争してしまうことと、②放置すると畑に生えてくる植物の種類が変化して、野菜を育てるのに適さない土地になってしまうことの2つがあげられるそうです。

森田さんに、横浜さつきが丘農園の中を案内していただきながら、抜くべき雑草と放っておいてよい雑草について教えてもらいました。

カラスノエンドウやスズメノエンドウといった種類の雑草ですが、実はそれらを一生懸命刈るのであればヘクソカズラを探して、越冬したつるごと取り除く方が夏の雑草管理が楽になるそうです。

ピンクの花を咲かせているのがカラスノエンドウ、小さい白い花を咲かせているのがスズメノエンドウ。

「カラスノエンドウやスズメノエンドウは、一見繁茂しているので刈らなければならないと思いがちですが、これらは冬になる前に芽を出し、冬の間にゆっくり成長して春に花を咲かせる一年草です。花が咲き、種をつけたら一気に枯れてしまうので、気にならなければ放っておいて問題ありません」(森田さん)

真ん中で花を咲かせているのがアメリカフウロ。

「これはアメリカフウロという雑草で、今は小さいですが、1カ月ほどでどんどん大きくなって広がります。カラスノエンドウやスズメノエンドウの方が繁茂しているように見えたとしても、梅雨頃の管理を考えると、アメリカフウロを抜くのが正解です」(森田さん)

花が咲き終わり実をたくさんつけているのがオランダミミナグサ。

「これはオランダミミナグサです。今は繁茂していますが、すぐに枯れてしまいます。ですから、これを刈ったり抜いたりするよりも、今抜くべきほかの雑草を知っておくことが大切です」(森田さん)

写真中央の少し赤みを帯びているのがスイバの花。

「ヘクソカズラやヒルガオといったつる性の雑草は、今の季節は小さくても、どんどんつるを伸ばして、ほかの野菜に絡みついてきます。多年草であり、今は目立たないですが、繁茂する前に抜いた方がよいでしょう。多年草で何年もそこに居座るという意味では、スイバやギシギシも抜いた方が無難です」(森田さん)

取材に伺った4月末頃に生えている雑草は、冬の間から生育しており、春になって暖かくなると花が咲いて枯れる雑草と、暖かくなってから芽を出して、夏に向けて生育する雑草とが混ざっているそうです。

雑草を活かしながら家庭菜園を行う人は、最初からすべてを理解しようとしなくてもよいので、草の種類を意識して、抜いた方がよい草と放っておいても問題ない草を見極めてほしいと話してくれました。

【後編】では、慌てて抜く必要がない雑草と畑の雑草の存在意義、そして森田さんのこれまでと目指していきたいことについてお伝えします!


【参照サイト】体験農園マイファーム 横浜さつきが丘農園
【関連ページ】【畑の雑草とは?後編】
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Life Hugger 編集部

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