【海を渡る往復書簡 ハワイー高知 #11 】2024年を振り返って

あっという間に12月。
大掃除に新年の準備、その前にクリスマス。
あれもこれもと、この時期はなにかと気ぜわしいです。

季節行事は簡略化されていく流れですが、それでも日本人にとって年末年始は特別な時間なのだな、と感じます。

庭に霜が降りました

冬の手仕事

私はと言えば、新年の準備どころか季節仕事で待ったなしの大忙しです。
干し柿づくりに柚子しぼり、さつまいもや落花生の収穫、それから種まき。深夜にとりかかる仕込むジャムづくりはこの時期の楽しみです。

高知といえば柚子。ご近所さんの柚子畑で採らせていただいた無農薬、無肥料の柚子は、手絞り機で1年分の果汁をしぼります。



こうしてしぼった柚子果汁を「ゆの酢(=柚子の酢)」と呼んで、1年分を瓶詰めにしてお寿司や酢のものなど、お酢のかわりにじゃんじゃん使います。高知に移住したばかりの頃は、柚子の香りとフレッシュな酸味の豊かさに、「なんと贅沢な!」と驚いたものです。



おちらしの酢飯には柚子酢をつかい、柚子皮も加えます。

「使い切れないから、どうぞ」と友人宅で採らせてもらったブシュカンでジャムもつくりました。
この土地では、たくさん採れたものをおすそ分けしたり、いただいたりすることが日常的で、コミュニティでの循環が自然に生まれています。

高知の柑橘「ブシュカン」

ジャムにしておすそ分け

「サステナブルな暮らし」と聞くと、「自然環境に負荷をかけない」ことがイメージされますが、それと同じくらい「循環」という面にも光を当てたいと思っています。

降り注ぐ自然や人の好意やおすそわけ、そして先人が切り開いてくれた道。それらの「ギフト」を受け取って、「自分にできることはなんだろう?」と想像すること。小さなことでもアクションを起こしてみること。たとえば、加奈子が大いなる海から受け取る感動や、航海の体験をシェアしてくれていることも、すばらしい「循環」ですね。

2024年を振り返って

今年を振り返ると、様々なことがありました。

個人的なことでいえば、障害のある息子の自立と宿泊業のスタートが大きかったです。
海を渡る往復書簡 ハワイー高知 第5回「始まりの季節、わが家のスタート」

学校を卒業して、サポートを受けながら地域で働き、暮らすこと。彼の「自立」は大きな目標だったので、ほっとすると同時に感慨深くもあります。

もうひとつのチャレンジは、「泊まってもらえる場所をつくる」ことでした。実は、この取り組みは、初めて高知を訪れた時、当時加奈子の住んでいたシェアハウスに泊まらせてもらった経験にもつながっているんです。

朝起きた時に目に飛び込んできた山、山、山、そして目の前を流れる川。山での暮らしを間近で見せてもらった体験は圧倒的で。土地の食材で一緒に食事を作って食べたのも忘れられない時間です。そのギフトを、また次の人につないでいけたら、そんな気持ちもあって、宿泊業のスタートに踏み切りました。

高知の木で建てた一棟貸しの宿「Lotus Retreat」。キッチン付きなので、暮らすように過ごせます

今年を社会的な視点で振り返ると、今も続くイスラエルによるパレスチナ人への攻撃が目の離せない出来事でした。国連をはじめ、国際社会は、ジェノサイド(虐殺)を止められず、パレスチナの人々の、暮らしも文化も、命さえもが奪われ続けていく。

国内では、衆議院選や都知事選などの選挙に注目していました。加奈子の住むアメリカでは大統領選もありましたね。正直なところ、アメリカや日本の選挙結果は権力の暴走、民主主義の機能不全を予感させるもので、気落ちすることもたびたびありました。

それらを経て、いま、1年の終わりに感じるのは「これから世界は、日本社会はどうなっていくのだろう?」という、あまりに大きなテーマです。

「自分には関係ない」「しょうがない」とそれらの出来事から距離を取れば、落ち込まなくても済むのかもしれません。でも、それを選ばないのは、私たちは「この社会」に生きているから。自分一人の力が無力に思えても、知ろうとすること、考えること、小さなことでもやってみること(無理をせずに!)、そして何より「あきらめないこと」が大事だと思うのです。

大きな変化は生み出せなくても、自分は変わっていくことができるし、ちいさな希望を集めてつないでいきたい。そんな気持ちで1年を過ごしてきたように思います。

もちろん、うれしい変化もありました。以前から注目していたNPO法人抱樸(ほうぼく)のクラウドファンディングの成功です。35年間ホームレス支援を続けてきた団体が、だれひとりとりのこさない「希望のまち」をつくる、という壮大なプロジェクトです。

「わたしがいる、あなたがいる、なんとかなる」を合言葉にしたクラウドファンディングは成功を収め、5000人以上の賛同者から1億円が集まりました。

1億円達成という結果は目を見張るものです。けれど、それ以上に価値があるのは、この5000人が、このプロジェクトの行く末を継続的に見守る、ということなのかもしれません。「寄付」は「お金を渡しておしまい」ではなく、「そのできごとに注目し続ける」という効果を生みます。ささやかな金額であっても、「賛同してお金を渡した」ことにより、もはや他人事ではなくなり、興味と関心が湧いてくる。

「ある国の人口の3.5%が非暴力で立ち上がれば、社会は変わる」(『市民的抵抗 非暴力が社会を変える』エリカ・チェノウェス著、白水社)この言葉には、たびたび勇気づけられています。

ある出来事を通じて気づきを得ると、社会を新しい目で見ることができる。すると、社会に対する見方や関わり方が自然に変化していく。その一連のプロセスこそが、「希望」だと思うのです。

海を渡る「言葉のギフト」

2024年はこの往復書簡がスタートした年でもありました。様々なテーマに考えを巡らせ、言葉にして、手紙を送り、そしてまた受け取って。ハワイと高知、海を越えてのやりとりは、毎回ビビッドな驚きと深い学びに満ちたものでした。

星と風、自然界のサインだけで航海するハワイのカヌー、ホクレア号。20代でハワイに向かい、そのホクレア号の日本人初のクルーである加奈子のこれまで、そして今年から始まった航海のこと。これまでの手紙を読み返してみたら、心に響く言葉がいくつも目にとまりました。

「数えきれない出会いやきっかけが重なりあい、いつの間にか辿ってきた道。自分で決めたと思い込んでいることも、もしかしたら、なにか自然の流れにより自分のところに運ばれてきたのかもしれない。そんな不思議な気持ちになることがあります。」
第2回「海を越えてハワイから日本へ。ホクレアとの出会い」

「シェアする、分かち合うということには、その行為そのものに、大きなエネルギーがあるような気がします。分かち合いがひとつの流れとなり、そこにたくさんの支流が集まって、大きな流れが生まれる。そしてその大いなる流れが、数え切れない人々へと恵みを運ぶ」
第4回 「自然の恵みも伝統もシェア、人と自然を繋ぐハワイの分かち合い」

加奈子の見た世界を、感じていることをたくさんの人に知ってもらいたい。この往復書簡のはじまりには、そんな気持ちがあったことも思い出しました。この手紙のやりとりを読者のみなさんとシェアできたことも、大きな喜びでした。

1年間、ありがとう。どうぞよい年末を!

高知の麻子より

photo撮影:著者

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服部麻子

高知の山のふもとで、ちいさな畑、野草茶ブレンド、保存食づくりを楽しむ。 日々のごはんはそのとき「あるもので」作っています。著書に『サステイナブルに暮らしたいー地球とつながる自由な生き方―』『サステイナブルに家を建てる』(アノニマ・スタジオ)(写真 衛藤キヨコ)Instagram:@asterope_tea