【7/31開催】エンターテインメントが切り拓くサーキュラーエコノミーの新たな展開~映画『せかいのおきく』から学ぶ

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」とIDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。

映画『せかいのおきく』が、いま劇場上映されています。

舞台は、江戸末期。日本は外国から開国を迫られ、激動の時代を迎えていました。『せかいのおきく』は、この時代に江戸の長屋に生きた人の生活・恋・人生観・世界観などを、コミカルかつ文学的に情緒的に淡く深く描いた映画です。そして、『せかいのおきく』の根底にあるのが、当時すでに存在した循環の仕組みです。

作中にいきいきと描かれる若者2人の職業は、下肥(人糞)買い。人糞は、世界で古くから肥料として農業に活用されていましたが、日本では人糞は下水には流されず衛生的に扱われていたのが特徴です。江戸末期、1858年に日米修好通商条約を締結したタウンゼント・ハリス初代米国総領事は、入港後に領事館を構えた静岡県の下田について清潔で気持ちがいいと日記に綴っています。

当時、人口100万人を超え世界最大級の都市だった江戸も同様で、上下水道は整備され人糞は下水に流されず、清潔な状態が維持されていました。良好な衛生状態は、人の健康を保ち、人と社会に大きな循環をもたらします。この江戸の清潔さと循環に寄与していたのが、作品に登場する若者2人のような下肥買いです。

画像出典:映画『せかいのおきく』

2023年6月6日~11日、ドイツ・フランクフルトで第23回日本映画祭「ニッポン・コネクション」が開催されました。同映画祭は日本映画の”いま”を伝えるべく、毎年約100本の日本映画を上映しており、今年『せかいのおきく』も上映されました。

Circular Economy Hub編集部は、6月9日に「ニッポン・コネクション」で上映された『せかいのおきく』を鑑賞。後日、企画・プロデューサーとして『せかいのおきく』を立ち上げ、美術も手掛けた原田満生氏に話をうかがいました。

『せかいのおきく』は、原田氏が立ち上げたプロジェクト「YOIHI PROJECT」の第1弾作品です。YOIHI PROJECTは、日本映画製作チームと世界の自然科学系研究者が協力して、さまざまな時代の「良い日」に生きる人々を描き「映画」で伝えていくことを目指しています。

6月9日の『せかいのおきく』上映会場は満席だった

原田氏が立ち上げた「YOIHI PROJECT」

まず、YOIHI PROJECTについてうかがいました。

「いま、世界には環境問題・バイオエコノミー・サーキュラーエコノミー・自然との共生など、さまざまな課題があります。この課題を映画の中にテーマとして散りばめて、説教じみずにドラマ中心に映画をつくり、観客が自発的に考えるきっかけをつくるのが、YOIHI PROJECTの目的です。

100~150年後に伝えていくことも、同プロジェクトのテーマです。いま、こうした課題を解決できなくても、100~150年後には時代・技術・人も変わっているはずなので、映画人と学者が連携して、長い間伝えていく・持続させていくということを目標に活動しています。映画人と学者が連携して、いろいろな視点で作品をつくるという、いままでにないようなプロジェクトです」

サーキュラーエコノミーをテーマにした理由

「研究者の方から、企画のテーマをいくつか提案されました。江戸時代・うんち・底辺から世の中をみるという映画はこれまでなく、面白いと思いました。このテーマは、根本的にいやだという人もいて、リスクはありましたが、このような視点で循環を時代劇として表現することは面白いのではないかと思いました」

撮影で使用したものは、すべてリユース品

『せかいのおきく』では美術セット・小道具・衣装など、撮影で使用されたすべてのものがリユース品です。映画業界において斬新な取り組みである「リユース」に至ったきっかけをうかがいました。

「映画は、新しいものだけで撮影するシーンはあまりありません。10年・20年・50年前という舞台設定が多々あり、そういう場合は、新しくつくった材料を古く見せます。しかし、もともとある古いものを取っておいて、組み合わせることもできます。組み合わせることは大変な部分もありますが、パーツとして使っていけば、リアリティも増していいなと思い、これまで使用したパーツを以前から捨てずに保管していました。

街中にある古いものを買ったりもらってきたりして、保管し撮影に使い、それをまた保管するということを繰り返した時期もありました。もともと、アンティークは温かみがあって好きなので、いままでやってきたリユースをそれほど特別なこととは考えずに撮影現場に取り入れました。これをリユースと言われれば、そうなんだなという感じです」

実は、原田氏は15年ほど前から映画の撮影現場でリユースしたものを使用しきました。リユースするには、パーツを保管しなくてはなりません。コストについてうかがいました。

「基本的に、サーキュラーエコノミーはお金がかかるから難しく、不可能な面があります。パーツのリユースのコストは高く、新しいものをつくって捨てる方が安いです。それでも、いろいろな映画に関わるなかで、使用するパーツも多く、それを保管する場所もあるので、やりくりしています」

回収した糞尿を運搬するのに使用される汚わい船 画像出典:映画『せかいのおきく』

今後、映画製作で実践していきたい循環型の取り組み

「フードロスに関連して、撮影現場での弁当があります。撮影現場では、基本的に弁当やケータリングサービスを利用します。弁当を利用するにあたって、弁当箱や紙などのごみが出ます。YOIHI PROJECTの2作目『プロミスト・ランド』は、山を舞台にしています。撮影中、弁当屋さんに弁当箱を持っていって食事を詰めてもらい、同じ容器を弁当屋さんに翌日持っていき、また食事を詰めてもらいました。

これはたまたま、山の中の撮影だったので、ごみは持ち歩けないということから始まりました。でも、これは今後結構活用できるなと思っています。私は映画のセットなどはリユース用に持ち帰りますが、映画の撮影時にはごみが大量に出ます。朝・昼・晩、撮影現場で食事して紙コップで飲み物と飲むと、さらに多くのごみが出ます。これは、本当に小さなことですが、小さなことの積み重ねは大切だと思っています。YOIHI PROJECTは、こうしたことを実践していきたいと考えています」

撮影現場では通常、一食につき50~100個の弁当が用意されるそうです。『プロミスト・ランド』の撮影現場では、普通の弁当が大量に積まれることなく、毎日各人の名前の書かれた弁当箱が配られ、「なんか、面白いな」と感じたと原田氏は語りました。

YOIHI PROJECT、今後の展望

YOIHI PROJECTは、『せかいのおきく』に関連して子供向けの本やアニメなどを販売しています。教育・体験プログラムをはじめとする、今後のYOIHI PROJECTの計画と展望についてうかがいました。

「資金面もあるのでバランスが大切になりますが、今後はコンテンツ作成をメインにしていきたいと思っています。環境問題について、若い世代は真剣に考えています。若者に伝え持続させていくには、次世代の人たちとの協働が必要です。次世代に伝えていく方法についての意見を聞いてみたいと思っており、東京大学をはじめとする大学と連携して活動していきます。私たちから『こうしましょう』という提案はせず、若い人たちに『どうしたらいいか』を聞いてみたいと思っています。私たちの思いが若い世代に伝われば、彼らも次世代に伝えていくのではないかと思っています。

コンテンツをつくるのは大変ですが、つくったコンテンツの運用方法を若者と一緒に考えていきたいです。また、文化も言葉も異なるさまざまな国で、積極的に伝えていきたいです」

編集後記

100~150年後を見据えて、映画人と学者が連携し、伝え持続させていくことを目指すYOIHI PROJECT。「伝えていく対象である次世代と協働して、今後活動していきたい」という原田氏の考えが、とても印象的でした。そして、「舞台セットや弁当箱のリユース」を自然な形で取り入れたこと、それを面白いと感じたということを興味深くうかがいました。こうした試みは、同氏が長年映画に関わってきたなかで、すでに「小さなことの積み重ね」に重きを置いていたことの結果なのでしょう。

原田氏は、『せかいのおきく』のテーマについて公式サイトでこう語っています。

江戸時代は資源が限られていたからこそ、使えるものは何でも使い切り、土に戻そうという文化が浸透していました。人間も死んだら土に戻って自然に帰り、自然の肥料になります。人生の物語もまた、肥料となります。自然も人も死んで活かされ、生きます。この映画に込めた想いが、観た人たちの肥料になることを願っています。

今回のインタビューのなかで原田氏は、循環をテーマにしたエピソードやせりふが『せかいのおきく』のなかに多く散りばめられていると述べられました。みなさんは、『せかいのおきく』に散りばめられたさまざまな循環について、どんな感想を持たれるのでしょうか。

映画情報

せかいのおきく』全国公開中

出演:黒木華 寛一郎 池松壮亮 眞木蔵人 佐藤浩市 石橋蓮司
脚本・監督:阪本順治
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア
©2023 FANTASIA

【7/31開催】エンターテインメントが切り拓くサーキュラーエコノミーの新たな展開~映画『せかいのおきく』から学ぶ

「YOIHI PROJECT」の映画プロデューサー、菅野和佳奈氏をお迎えし、プロジェクトが映画制作を通じて目指す循環型の未来、江戸時代のサーキュラーエコノミーを描いた映画『せかいのおきく』制作から得られた循環型社会のヒント、その実現のためにエンターテインメント業界が持つ可能性などについてうかがい、考えます。

■ イベント概要
開催日時 2023年7月31日(月)19:00-20:30 (事前にお申込みを頂いた方はアーカイブでもご視聴頂けます)
スピーカー菅野和佳奈氏 (Wakana KANNO)  YOIHI PROJECT 映画プロデューサー
参加費
  • 一般:2,000円(税込)
  • コミュニティ会員:無料(Circular Economy Hubへの会員登録後に加入できるSlackコミュニティ内でご案内するクーポンコードを入力)
  • 読者会員:1,000円(税込)(Circular Economy Hubサイトにログイン後、イベントページよりクーポンコードをご取得ください)
  • ニュースレター登録者:1,500円(税込)(Circular Economy Hubニュースレター7月号 – 2023年7月中旬までに配信予定 – に記載のクーポンコードを入力)

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定員30 名(先着順)
タイムテーブル19:00~:オープニング
19:05~:編集部よりミニレクチャー
19:15〜:菅野氏と編集部によるディスカッション
20:15〜:質疑応答
20:25〜:クロージング
参加方法Zoomにてご参加ください
Zoom参加

こちらのPeatixページよりお申込いただけます。


【参照サイト】YOIHI PROJECT
【参照サイト】『せかいのおきく』
【参照サイト】ニッポン・コネクション
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