【海をわたる往復書簡 ハワイー高知 #6】ハワイでの日々の中にある「はじまり」

内野加奈子

はじまりの季節「春」。ハワイでは冬季から夏季へと移り変わるシーズンで、春らしい感じというのはほとんどありません。
それでもなぜだか、はじまりを意識するのは、季節のイメージが体に染み込んでいるのかもしれません。

服部家では、Kくんの自立やゲストハウスのスタート、どちらも大きな「はじまり」ですね。
自分たちの感覚を大切にしながら、ひとつひとつ丁寧に向かい合い、しなやかに願いを形にしていく麻子たちのあり方に、いつも力をもらいます。

私にとっての大きな「はじまり」は、伝統航海カヌー「ホクレア」が、昨年5月にスタートさせたモアナヌイアケア航海です。

「モアナヌイアケア」とはハワイ語で「大いなる海」という意味

モアナヌイアケア航海は、アラスカを起点とし、そこからアメリカ西海岸を南下、さらに南米、ラパヌイ(イースター島)、タヒチ、南太平洋諸島、アオテアロア(ニュージーランド)、メラネシア諸島、ミクロネシア諸島、アジア各地、と太平洋をぐるりと巡りながら、約4年間をかけて、世界各地350ほどの港を巡る大航海です。

約4年というと、そんな長い間、海に出続けているのかと驚く方もいるのですが、クルーは3〜4週間ごとに交代しながら、航海をつないでいます。昨年、私は、スタート地点のアラスカの航海、ブリティッシュコロンビア(カナダ)の航海、カリフォルニアの航海の3つの航海に参加しました。

内野加奈子さん

圧倒的なスケールだった南東アラスカのハバード氷河

氷河と暮らす人々との出会い、壮大なアラスカの自然、カナダの先住民からの学び、海から訪ねた北米西海岸。そのひとつひとつが、わたしにとって新しい「はじまり」を与えてくれる航海でした。

内野加奈子さん

ブリティッシュコロンビアで訪れた先住民の村でのセレモニー

その後、ラハイナの災害や、エルニーニョ現象の影響などもあり、ホクレアは航路を変更して、いったん、ハワイに戻ってきています。今年はハワイを拠点にしながらトレーニングを続けていて、夏には、ハワイから赤道までの間を往復する航海が予定されています。

ハワイでの日々の中にある「はじまり」

そんな大きな「はじまり」もあるなか、私にとっては、振り返ってみて初めて、あれが「はじまり」だったと気づくものが多いよう。

たとえばハワイに暮らすようになったのも、直接のきっかけはホクレアの存在を知ったことですが、そもそもホクレアの存在を知ったのは、海に夢中になっていたから。そして、そもそも海に夢中になったのは、と記憶を辿っていきながら振り返ってみると、「ああ、あれが『はじまり』だったのかも」ということばかり。

数えきれない出会いやきっかけが重なりあい、いつの間にか辿ってきた道。自分で決めたと思い込んでいることも、もしかしたら、なにか自然の流れにより自分のところに運ばれてきたのかもしれない。そんな不思議な気持ちになることがあります。

“はじまりや終わりといった時間の区切りを意識せず自身の感覚に身を任せ、そうした自然の“流れ”を止めないようにしたい。ここのところは、そんな“ 流れ”をなるべく邪魔したくない、と思うようになりました。

海に出ると、その感覚が強くなります。自然の理に、どれだけ沿っていけるか。とてつもなく大きな自然のエネルギーと、どこまでひとつになっていけるのか。

内野加奈子さん

自然と対峙する時には、心静かに、大自然の声に耳を傾けます。毎日、毎日、同じように見える海や空も、かならず変化しています。

麻子の言う「静かでダイナミック」な感じ。そんな繊細なエネルギーやゆらぎを感じ取ることで、全体を循環する大きな動きに気づくことができる。まさにそんなイメージです。

海から戻った普段の暮らしでも、そうした自然から受けるイメージを大切に、感覚をひらき、静かな声に耳を澄ましていたいです。

そんな静かな声が届けてくれる気づきこそが新しい「はじまり」につながっていくように思うのです。

暮らしの中で、心と体に意識を巡らせ感覚をひらく

麻子の習慣になっている、毎朝、庭をぐるりと歩く時間。自分の感覚をひらき、小さな変化に気づく。植物の繊細なエネルギーを感じ取る。日々の中に、そんな時間があるのは、本当に大切な気がします。

私にとって、一番、感覚がひらくのは、海の“中”にいるとき。

海は、一瞬、一瞬、すべてが動き続けている世界です。
身ひとつで海の中に潜り、水に包まれていると、
今ここに生きている感覚が、とても鮮やかになります。

内野加奈子さん

よく出かけるお気に入りのビーチ

ずっと海の中にいられたらいいのですが、そういうわけにもいかないので、普段の暮らしでも、感覚をひらく時間をなるべく意識していきたい。

心がけているのは、体全体の感覚に目を向けること。気がつくと、つい頭だけに頼ってしまうところを、体の内側の感覚に意識を向ける。日々の暮らしでは、できるだけそれを思い出すようにしています。

この春のはじまりがくれた、思いがけないギフト

この春、私が新しくチャレンジしたことがひとつ。自分が制作した絵本を英訳し、ハワイでの読み聞かせイベントに参加しました。

毎月、絵本のイベントを開催している団体から、私の絵本を紹介したいとお声掛けをいただき、素晴らしい機会なので、参加させていただくことにしました。英訳をして準備を進めているうちに、ご縁があって、プロのチェロ奏者の方が、読み聞かせに即興の音楽を付けてくださることに。当日、私の言葉に合わせて、音楽が生まれ、まるでジャズのセッションのような夢のような時間でした。

内野加奈子さん

Patagonia Honoluluで開催した絵本のイベント。チェロを弾いてくださったのは、ハワイのグラミー賞とも称されるナ・ホク・ハノハノ・アワード受賞のJoshua Nakazawaさん。チェロは世界に5挺しかない、亜麻の繊維で作られたものです。

目をきらきら輝かせながら、夢中で物語を聞き入っている子供たちの姿にも、胸がいっぱいになりました。たくさんの方に喜んでいただき、2回目の開催も決まりました。

内野加奈子

イベントで紹介した海の絵本シリーズ 『星と海と旅するカヌー』『サンゴの海のひみつ』共に、うちのかなこ作、やまざきゆきこ絵(きみどり工房)

自分の心惹かれること、大切にしていることを続けていると、思ってもみなかったギフトを受け取ることがあります。
そんなギフトに感謝しながら、物語を届ける仕事への思いを新たにした春でした。

photo: 著者(1-6枚目)

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内野加奈子

ハワイの伝統航海カヌー「ホクレア」クルー。ハワイ大学で海洋学を学び、州立海洋研究所でサンゴ礁研究の後、人と自然の関わりをテーマに写真・執筆活動、絵本制作、学びの場づくりなどに携わる。著書に『ホクレア 星が教えてくれる道』(小学館)、絵本『星と海と旅するカヌー』(きみどり工房)ほか。 Instagram @kana_uchino