都市ならではの循環生活を考える【Urban Circulars特集 #0】

4Nature CSA

2021年5月、東京・表参道の青山ファーマーズマーケットで、都市ならではの食の循環のありかたを模索した画期的な実証実験がスタートした。

都会でコンポストに取り組む消費者が、自宅で作った堆肥をファーマーズマーケットに持っていき、その堆肥を農家に手渡し、代わりに野菜を受け取るという取り組みだ。将来的に、農家は消費者から受け取った堆肥を使って野菜を育て、その野菜を消費者に提供するという循環の仕組みが生まれることになる。

表参道でコミュニティコンポスト「1.2 mile community compost」プロジェクトを展開してきた株式会社4Nature、表参道で毎週末行われている青山ファーマーズマーケット、そして千葉県山武市で農業を営む農国ふくわらいという3者の協働により実現した。

この取り組みにはCSA(Community Supported Agriculture)と呼ばれるモデルが適用されている。CSAとは、農家が独自の会員を持ち、一年分の野菜を事前に購入してもらうという仕組みだ。CSAにより、農家は収穫量や市場に左右されることなく独自の販路で営農することができるようになり、会員は援農などを通じて農家と直接コミュニケーションをとりながら顔が見える関係の中で安心かつ安全な野菜を受け取ることができる。

CSAイメージ

実証実験の全体像

コロナ禍を経て持続可能な暮らしへの関心が高まるなか、東京を始めとした都市部でも自宅のベランダなどで生ごみの削減に向けてコンポストに取り組み始める人が増えている。一方で、ベランダや庭などのスペースにも限りがあり、コンポスト後に使い切れなかった土の処理をどうするか悩んでいる消費者も多くいた。せっかくコンポストをしたとしても、その堆肥が有効活用されなければ循環のループはそこで途切れてしまう。

また、CSAは農家と消費者が近い距離におり、地域のコミュニティがある郊外や農村部では成り立ちやすいものの、近隣にそもそも農家がなかったり、つながりがなかったりする都市部で暮らす消費者にとっては、参加するのにハードルがあった。もちろん都市部から遠隔で地方の農家が提供するCSAに参画することも可能だが、直接会話したりせずに配送だけのやりとりで終わってしまうと、その良さを生かしきることはできない。

4Natureら3者が作り上げた取り組みのユニークな点は、CSAにコンポストを掛け合わせるだけではなく、堆肥と野菜を交換する中継地としてファーマーズマーケットを活用するという点だ。

ファーマーズマーケット

青山ファーマーズマーケットの様子

東京の中心部・表参道で行われているファーマーズマーケットを中継地とすることで、消費者は遠くの農家まで堆肥を運んだり、野菜を受け取りに行ったりする必要がなくなるほか、自宅でつくった堆肥も有効に活用できるようになる。

また、農家としては地域コミュニティの限られた商圏のなかでCSAを展開するだけではなく、都心部で暮らす消費者という新たなマーケットにアクセスできるようになる。

さらに、ファーマーズマーケットとしても、CSAの中継地として活用してもらうことで新たな集客につながり、マーケットに参加する他の農家にもその恩恵がもたらされる。

こうすることで、都市でつくられた堆肥に出口が生まれ、都市で暮らす消費者も食の循環のループに加わることができるようになる。このように、参加する人すべてにメリットがあるのがこの都市型のCSAプログラムなのだ。

5月の実証実験開始に合わせて、参加者は20名ほど集まった。参加者らはオンライン上のチャットツールを活用してコンポストのノウハウを共有したり、農国ふくわらいから受け取った野菜を使った料理の写真などを共有したりしながら、それぞれのコンポスト生活を楽しんでいる。

同プログラムをきっかけにコンポストをはじめた参加者もおり、すでに都心の消費者に生活の変化を生み出している。

4Natureによると、今回の実証実験を踏まえ、今後はファーマーズマーケットに加えてカフェなども拠点として活用することで、さらに消費者が参加しやすい仕組みを整え、循環の輪を広げていく予定だという。

また、同社はその一環として8月からこのCSAとコンポストを組み合わせた新たな循環モデルを通じてよりよい地域コミュニティを構築していくための共創会議もスタートしており、今後は月1回を目安に開催予定とのことだ。

ファーマーズマーケット

参加者が野菜を受け取る様子。写真左は農国ふくわらいの髙木克弘さん

都市型CSAを、会社の福利厚生に

同プログラムでは、4NatureとIDEAS FOR GOODの運営会社であるハーチ株式会社との連携により、もう一つ新たな実験が行われている。それは、この都市型CSAを会社の福利厚生と掛け合わせるという取り組みだ。

ハーチ株式会社では、従来から会社から出る廃棄物削減に向けたゼロウェイスト施策の一環として社内でコンポスト活動を展開していたほか、コロナによりリモート勤務が常態化してからは、社員の自宅におけるコンポストの取り組みも支援してきた。

しかし、社員からコンポスト後の堆肥の活用方法について課題があり、そこで今回の都市型CSAプログラムに企業として参画することを決めた。具体的な仕組みは、以下の通りだ。

まず、社員が自宅でコンポストした土をファーマーズマーケットに持っていき、その代わりに野菜を受け取る。そしてその野菜を社内の冷蔵庫に保管し、出社した社員がシェアして持ち帰る。ファーマーズマーケットに加えてオフィスも中継地点として活用することで、ファーマーズマーケットから距離がある社員も新鮮な野菜をオフィスで受け取ることができるようになるほか、新鮮な野菜がリモート下におけるオフィスへの出社理由となる。

7月時点ですでに3回野菜の受け取りが行われているが、社内のオンラインチャットでも野菜を使った料理などがシェアされている。

野菜料理

社員が受け取った野菜(ビーツ)を使って作ったボルシチ

将来的には会社から出たコンポストの堆肥を活用して野菜を育て、それらを社員がシェアしながら料理をして食べるという仕組みまで発展させることで、ゼロウェイストや食の循環を推進するだけではなく、社内のコミュニケーション活性化も期待している。

都市ならではの、食の循環の形をデザインする

2050年には世界人口の7割が都市に住むようになると予測されており、都市が世界の廃棄物の半分以上、温室効果ガスの6~8割を排出しているという現状を踏まえると、都市におけるサーキュラーエコノミーの推進は、世界共通のテーマだ。

都市という場所が持つ様々なメリットを享受しつつ、環境負荷を削減し、むしろプラスの影響を生み出すような循環型のライフスタイルをつくりあげることができれば、2050年の世界はよりよいものになるだろう。

同じ志を持つ様々な人々がコラボレーションすることで新たに始まった都市型CSAのモデルは、そのような未来に近づくうえで一つの可能性を示している。そこで、IDEAS FOR GOODでは本取り組みに焦点をあて、食を通じて都市ならではの循環のありかたを考える「Urban Circulars(アーバン・サーキュラーズ)」特集を開始することにした。

CSA

Urban Circulars 特集予定記事

本特集では、全5回に分けて、CSAプログラムに関わるそれぞれのステークホルダーの視点から都市ならではの循環型ライフスタイルの可能性を模索し、その輪郭をつくりあげていく。

  • #1寛容性を育む。4Natureが考える、都市型CSAの未来
  • #2ベランダで土に触ろう。LFCコンポストは、生活をどう変えるか?
  • #3消費者とつながる新しい農の形を求めて。「農国ふくわらい」の挑戦
  • #4青山ファーマーズマーケットが紡ぐ、消費者と生産者の新たな関係性
  • #5【イベント】コンポストとCSAが実現する、都市ならではの循環型ライフスタイル

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。

【関連記事】家庭の食品ごみが農家の堆肥に。都市で始める、小さな食の循環「CSA」
【参照リリース】農業と都市をつなぎ、まちづくりへ。地域コミュニティに関わるすべての人を対象にした共創会議を開催 <CSAを応用した循環の仕組みを構築するためのワークショップ>
【ELEMINIST連動記事】都市における循環生活を模索 「IDEAS FOR GOOD」とのコラボ特集「​​Urban Circulars」を始動
【参照サイト】ELEMINIST
【参照サイト】4Nature
【参照サイト】青山ファーマーズマーケット
【参照サイト】農国ふくわらい

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Life Hugger 編集部

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