古着を「1つの箱」に入れるだけ。AIとデジタル製品パスポートが仕分ける、EUの実証プロジェクト「TexMat」

着なくなった服を手放すとき、「これはまだ着られる?」「これはもう捨てるしかない?」と迷った経験はないでしょうか。リユースに回すのか、リサイクルなのか、それとも廃棄なのか——その判断を、消費者が1つの回収ボックスに入れるだけで、あとはシステムが自動で振り分けてくれる。そんな仕組みづくりが、いまEUで動き出しています。

その実証プロジェクトが「TexMat(AUTOMATED COLLECTION AND SORTING SOLUTION FOR CONSUMER TEXTILES)」。デジタル製品パスポート(DPP)が持つ素材・製造情報と、AI画像解析による衣類の劣化状態判定を組み合わせ、リユース・リサイクル・廃棄へ自動で振り分ける仕組みを目指すものです。2025年10月に始動し、2029年まで運営、フィンランドとスペインで実証実験が予定されています。

85%がまだ埋立・焼却へ。EUの繊維廃棄物のいま

EUでは2025年から、加盟国に使用済み繊維製品の分別回収体制の整備が義務付けられました。2026〜2027年には、デジタル製品パスポート(DPP)の段階的導入も始まります。ところが2022年時点で、EUの家庭系繊維廃棄物の85%は依然として埋立・焼却に回っており、制度整備と実態の間には大きなギャップがあるのが現状です。

数字で見ると、その厳しさがよくわかります。

指標 年次
EU域内の繊維廃棄物量 694万トン 2022年
一人当たり繊維廃棄物量 16kg 2022年
うち分別回収された量(一人当たり) 4.4kg 2022年
家庭系繊維廃棄物の埋立・焼却率 85% 2022年

2022年の694万トンという数字は、2020年の695万トンからほぼ横ばい。制度整備が進んでも、実態としての改善は限定的だったことを示しています。

この状況を受けてEUが導入するDPPは、製品の原産地・素材・製造情報に加え、使用・メンテナンス・修理・リサイクルに関する情報を記録し、製品ライフサイクル全体でのデータ活用を可能にする仕組みです。これらはEUの「Strategy for Sustainable and Circular Textiles(持続可能で循環型の繊維戦略)」および「Circular Economy Act(循環経済法)」の一部で、拡大生産者責任(EPR)の実装もこの枠組みに含まれます。

【箱に入れるだけ】TexMatはどう仕分けるのか

TexMatは、DPPだけでは把握できない「実際の劣化状態」をAIで補うことで、仕分けの自動化を目指すプロジェクトです。

回収から仕分けまでの流れは、こうです。消費者はブランドや衣類の状態ごとに持ち込み先を選ぶ必要がなく、不要になった衣類をまとめて専用の回収ボックスに持ち込めます。システムがDPPの素材・製造情報と、AI画像解析による劣化判定(変色・毛玉・毛羽立ちなど表面状態の分析)を組み合わせ、リユース・リサイクル・再販売のいずれかへ自動的に振り分けます。そして再販売された場合、その売上は利用者へ自動的に還元される設計になっています。

TexMatの核心にあるのが、衣類の表面状態を自動で見極めるAIです。じつは、衣類の表面状態(摩耗・劣化)を自動判定する商用サービスは、現時点では存在しません。

TexMatはこの領域を研究課題として位置づけ、TTK University of Applied Sciencesとの協業でハイパースペクトルイメージングなどの機械視覚技術を応用しています。予備的な結果では、画像解析・コンピュータビジョンによる自動判定の実現可能性は高いとされています。

プロジェクトコーディネーターはVTT(フィンランド技術研究センター)、主任研究者はElina Ilén。欧州の市民社会・研究機関・産業界・IT/ICT分野から14機関が参加し、2025年10月に始動、2029年までの運営が予定されています。DPPのデータキャリア(衣類への統合方法)については、Protex Balti Asと共同で検証が進められています。

リユース事業者にもメリット。欲しい服が、欲しい形で届く

この仕組みは、服を手放す消費者だけでなく、受け取る側のリユース事業者にとっても利点があります。ブランド・カテゴリー・サイズ・色など、自社の需要に合った衣類を受け取れるようになり、人手による仕分け作業の効率化が期待されています。

TexMatの意義は、単なる技術実証ではなく、2026〜2027年に迫るDPP義務化という制度変化とタイミングを合わせている点にあります。DPPが「情報インフラ」を提供し、AIが「劣化判定」という制度だけでは埋められない部分を補う——この組み合わせ自体が、EUの繊維循環戦略が実効性を持つための鍵になりうるのです。

ただし、衣類の自動劣化判定はまだ商用化前の研究段階であり、TexMat自体も2025年10月始動・2029年までの実証プロジェクトです。現時点では「稼働実績」ではなく「実証設計」として理解する必要があります。

【これからの注目点】そして、日本の私たちにとって

これからチェックしておきたいポイントは、次のとおりです。

  • フィンランド・スペインでの実証実験の結果(精度・処理コスト・消費者の利用率)
  • DPP義務化(2026〜2027年)とTexMatのような技術実証が、他のEU加盟国・他業界(家電・電子機器等、DPPは繊維以外にも拡大予定)にどう波及するか
  • 日本国内でも同様の「回収窓口の一本化+自動仕分け」ニーズがあるか

日本国内でも、日本サステナブルリペア協会の設立など、修理・お直し領域での業界団体化が同時期に進んでいます。「迷わず手放せて、ちゃんと次につながる」——そんな仕組みが暮らしのなかに増えていくのか、これからの動きに注目したいところです。

編集部注釈

  • TexMatの仕組み(DPP+AI判定、売上自動還元)は2026年7月時点でプロジェクト設計として発表されている内容であり、商用サービスとしての稼働実績ではありません。
  • 衣類表面の劣化状態を自動判定する技術は「予備的な結果は有望」とされる段階で、精度や実用化時期は未確定です。

出典

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Life Hugger 編集部

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