日本の伝統衣装である「着物」。そのなかでも「西陣織」で知られる織物や、「京友禅」「加賀友禅」で知られる染物は、日本の代表的な伝統工芸です。それぞれが独自の魅力を持っていますが、今回は京都市伏見区にある京友禅の工房・岡山工芸株式会社を訪れ、その華やかな美しさに触れてきました。
女性初の伝統工芸士が創設した「岡山工芸」
今回お話を伺ったのは、岡山工芸の初代・岡山耕三さんと武子さんの長女であり、現代表取締役社長の岡山摩紀さんです。岡山武子さんは、京友禅で初めて女性の伝統工芸士として認定され、耕三さんとともに初の夫婦伝統工芸士となった方です。
武子さんの代表作には、女性が着て美しく見える着物や心安らぐ色と柄を追求した「ゆらぎ」などがあります。
「母は昔から絵を描くことが好きで、清水焼の絵付けをしていました。でもふと立ち寄った着物の展示会で『私はもっと大きなものに描きたい』と確信。そこから友禅の道に入りました」と摩紀さん。
武子さんはいつも「これを着物に描いてみてはどうだろう」と思い、自由な発想と感性でさまざまな柄を着物に表現されているそうです。
さらに、令和元年に耕三さんは日本文化への貢献が認められ、国から「瑞宝単光章」を授与されたのだそう。
そう話してくれた摩紀さんも、着物業界では数少ない女性代表の一人です。
京友禅とは
京友禅は手描き染めの技法。京都で人気の扇絵師・宮崎友禅斉が描く画風を着物に取り入れ、模様染めに生かしたことがはじまりです。構図から企画して案を練る糸目糊置き、筆を使って色を挿す彩色、刺繍、金銀箔など、当時の京都の染め技法を集約して完成しました。直接布の上に自由な図様を表現する「手描友禅」は、画期的な技法として江戸時代の京都に広がったのです。
京友禅は仕上がりまでに約20の工程があり、それぞれの分野を極めた職人たちが分業しています。そのうち、岡山工芸では構図から手描きまでの5~6工程ほどを担っています。
門を開いて、職人を育てる
現在の着物の生産量は、全盛期の1968年頃と比べると2%を下回っており、年々落ち込んでいるのが現状です。
岡山工芸は社員32名、そのうち半数が職人であり、染めの工房としては大きな規模を誇ります。
京友禅を初の女性伝統工芸士が始めたことから、憧れで扉を叩く職人希望者が多い同工房。絵画の勉強をしたことがなく、未経験であっても友禅染や初代に憧れる人、職人を目指したい人には研修を行っているのだそう。年齢制限なども特になく、学生から60代まで幅広く受け入れてきました。
京友禅の美に触れる体験も!
友禅染の美しさに触れてみたい人向けに、工房見学や体験クラスも開催しています。取材当日には、地元の小学生のための準備がされていました。お土産つきの工房見学では、動画やパネルを使った手描き友禅の説明を聞いた後に工房内を移動。職人さんが染色などの作業をしている様子を、実際に近くで見ることができます。友禅染体験では、染額・ハンカチ・帯あげ(ストール)のなかからひとつを選びます。
「着る、以外の友禅があってもいい」
染め体験の会場では、オンラインショップで扱いのない着物生地を使った雑貨小物の販売もしています。作業工程で出てしまう、販売の条件に満たない染め物で作られた名刺入れやがま口財布などに、廃棄予定だった生地を有効活用しているのですね。一つずつ手作りされた、「一点物の柄」という唯一無二の友禅雑貨です。
今回は手描き友禅の工房、岡山工芸を紹介しました。
摩紀さんは、「ルールにとらわれ過ぎず自分たちにできることを探究しています。大切なのは、まず友禅染の魅力を知ってもらうことですから」と語ります。
摩紀さんのお話を伺う中で、改めて着物や生地に施された美しい柄への関心が高まりました。友禅という伝統工芸が持つさらなる可能性にも、期待が膨らみました。
【公式サイト】岡山工芸
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