自分一人でエシカルな買い物をするのは大変すぎるから——世界の本当にエシカルなブランドと日本をつなぐファッションECサイト“Ethical Connections”

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日用品を選ぶとき、服を選ぶとき、「サステナブル」や「エシカル」といった考え方、そしてその背景にあるさまざまな問題を知れば知るほど、買い物をするのが大変だと感じます。

いつか、何も考えずに手に取るもの全てがサステナブル・エシカルになってくれたらいいですよね。そんな世界を本気で目指して立ち上げられたのが、ECサイト「Ethical Connections(エシカルコネクションズ)」です。

エシカルコネクションズのサイトには、世界中から選び抜かれたエシカルなファッションブランドの製品が並びます。今回はそんなECサイトの発案者であるDean Newcombeさん(ディーンさん)に、創業までのストーリー、そもそもエシカルファッションとは何か、特におすすめのブランドなどを伺いました。

Dean Newcombeさん

Dean Newcombeさん / photo by Ahlum Kim

日本から世界各地の支援活動を行う難しさ

「エシカルコネクションズ」が2021年12月にオープンする10年ほど前の2011年、ディーンさんは宮城県石巻市にいました。

「2008年に旅で初めて訪れてから、日本での生活に魅力を感じ、1年半モデルの仕事をしながら日本で暮らしました。そんななか2011年に東北で震災が起きて、いてもたってもいられなくなり一時帰国していたスコットランドから一人、被災地に向かいました」

tohoku ボランティア

右端がディーンさん

被災地では、瓦礫の撤去、衣服や食糧の配布などボランティア活動を精力的に行い、運営した団体が集めた義援金は約1000万円にものぼったといいます。そうした活動を行うなか、2013年にフィリピンで大型台風による大規模な災害が発生しました。

「フィリピンの台風でも東北と同じように多くの死者がでて、現地は壊滅的な被害を受けました。私も現地に赴きボランティア活動をし、日本国内で義援金集めも行いました。しかし、東北のようにはいかず、日本において日本国外で起きた問題に対するチャリティー活動を行うことの難しさを感じました」

ディーンさんの出身国であるイギリスにはチャリティーの文化が根付いていますが、日本にはそうした文化はありません。日本に住みながら、世界の他の地域で支援を必要としている人たちのために活動を行うにはどうしたらいいのか。そう考えていた時に、ある人そして考え方との出会いがありました。

買い物は投票。ソーシャルビジネスとの出合い

「日本でモデルの活動をしているなかで、フェアトレードでエシカルな衣料品を販売するPeople Tree(ピープルツリー)の元CEOで共同創設者の、Safia Minney(サフィア・ミニー)さんと出会いました。そして、ソーシャルビジネスという寄付を集めるのとは別の、社会問題を解決するための方法を知りました」

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サフィアさんとディーンさん

ソーシャルビジネスとは社会問題解決を目的とした事業で、寄付金などに頼らず事業収益を上げることで継続的な社会支援を可能にするような特徴を持ちます。

「この方法を知った時とても衝撃を受けました。これだ!というような。人々が何かを買う時にお金を使うということは、基本的にそのシステムや製造方法に投票することを意味します。私たちが選び、お金を使った場所・組織・人々が、私たちの住む世界をつくるのです」

こうしたきっかけから、『世界中で実践されているエシカルな活動と日本の生活者をつなぐことで、国外でより良い世界をつくろうと活動する場所や支援が必要な人々にお金が渡り、社会貢献にもつながる仕組みをつくりたい』と考え「エシカルコネクションズ」のアイデアを思いついたといいます。そして、2021年、さまざまな準備期間を経てサービスをスタートすることになったのです。

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エシカルコネクションズECサイト

本当にエシカルだという確信が持てるように

エシカルコネクションズでは、「本当にエシカル」なファッションブランドだけを扱っているとディーンさんはいいます。「持続可能な」という意味の「サステナブル」に対して、「エシカル」は「倫理的な・道徳的な」という意味を持ちます。では、「本当にエシカル(本当に倫理的)」とはどういう意味なのでしょうか?

「例えば、NIKEやH&Mなど、ごく一部にオーガニックやリサイクル素材をつかった製品を導入しているブランドは増えています。彼らはその一部の取り組みを上手くプロモーションしてエシカルなブランドのように振る舞っていますが、これらのブランドは本当にエシカルではない。ほとんどの商品においては、環境にも労働環境にも配慮が足りない方法で製造しているのですから、本当にエシカルと言えるまでにはまだまだ道のりは長いです。

私たちは、みなさんがエシカルコネクションズで買い物をする時には、本当にエシカルなものを手に入れたという確信を持って欲しいという想いがあります。そうした想いから、素材や生産方法、配送過程に至るまで、自信を持って『エシカル』と言えるブランドを選定しようと決めたのです」

エシカルコネクションズのサイトに並ぶ全ての商品には、ブランドから入手した情報や第三者認証を基に「人・動物・海・陸・空気」それぞれに配慮がされているかどうかが一目で判別できるようにマークが表示されています。

例えば「人」であれば「FOR PEOPLE(人のために)」といったマーク。このマークが付与されているブランドはフェアトレードなどの第三者認証を取得していて、製品の生産に関わる人々の安全や生活、伝統を守っていることを表します。

サイトでは、商品が気になる問題に対してきちんと配慮して作られているかどうかをマークから一目で確認できるようになっています。「人・動物・海・陸・空気」の5つ全てに配慮してほしいと思う方もいるかとは思いますが、実は全てをクリアするのは至難の業。厳選に厳選を重ねたエシカルコネクションズの中でも5つのマークがつくのは3ブランドのみです。しかし実際にはブランドの担当者と話をするなかで、第三者認証は取得していないもののしっかりと配慮がなされているケースも多くあるといいます。

エシカルコネクションズ商品ページのマーク表示

エシカルコネクションズ商品ページのマーク表示

「取り扱うブランドを選定する際、徹底したリサーチに加えていつもしていることがあります。それは話をすることです。ブランドの担当者と話すなかで、強く使命感や情熱を持って取り組んでいるのか、マーケティングの一貫でエシカルと言っているだけなのか、その違いが分かることも多くあります」

こうして数多くのブランドの中から厳選された26ブランド(2023年2月時点)がエシカルコネクションズのサイトには並んでいるのです。

長年愛用してきた2つのブランド

ディーンさんに、全取り扱いブランドのなかでも特におすすめのブランドを尋ねると、2つのブランドを教えてくれました。

「まず一つ目はイギリス生まれの、自然の中で遊ぶのが大好きな人々の為につくられたアウトドアファッションブランド『silverstick(シルバースティック)』です。2013年、エシカルコネクションズのアイデアを思いついてすぐに出合い、10年ほど私自身も愛用しています。製品には100%オーガニックな素材のみを使い、労働環境についても厳しい基準をクリアした認定工場で生産しています。彼らのモットーは『一生使えるものである』こと。本当にその言葉の通り、長年私も愛用しているものが多くありますが、へたることもなく長く着られています」

silverstickのADVENTURE オーガニックコットン Tシャツ着用画像

silverstickのADVENTURE オーガニックコットン Tシャツ着用画像 / photo by Anatole Papflippou

「そしてもう一つが、オランダ発のデニムブランド『MUD Jeans(マッド・ジーンズ)』です。2016年から私も愛用していて、エシカルコネクションズを立ち上げることが決まって真っ先に取り扱いたいと思ったうちの一つのがこのブランドでした。ジーンズはファッション業界において最も環境負荷の高いアイテムの一つで、一本つくるのに7,000リットル以上の水と有害な化学物質を使用します。そんなジーンズをはじめとしたファッション業界の状況を見かねて2012年に設立されました」

MUD JeansのSIMPLE CHIQUE デニム着用画像

MUD JeansのSIMPLE CHIQUE デニム着用画像 / photo by Anatole Papflippou

マッド・ジーンズは近頃日本でも注目されはじめたサーキュラー(循環型)の方法をファッション業界で取り入れた先駆的なブランド。今までのような「資源を採掘して→作って→捨てる」という直線型ではなく、廃棄物をできるだけ出さずに資源を循環させていく方法を採用しています。

例えばジーンズの素材は現在60%をオーガニックコットン、残りの40%にリサイクルコットンを使用しています。そこを、将来的には100%リサイクルコットンを使用して、新たに資源を使わずに製造することを目指して今も研究が行われています。

また水に関しても、全て雨水を用いているのに加えて、工場内にある最先端の技術によって、ジーンズの生産時に使用した汚れた水は、下水に流すことなく全て回収。90%の水が浄化され、再び生産時に使用されています。

「2022年に実際にチュニジアにある工場を、マッド・ジーンズのチームの人たちとともに訪れる機会に恵まれました。工場では、手作業で行われている質の高い生産過程や、素晴らしい技術の数々を直接目にしました。またジーンズを染めてインディゴ色になった水が機械を通過することで完全に透明になるのをこの目でしっかりと見たんです!『飲んでみて』と言われて実際に綺麗になった水も飲みました。素晴らしい体験でした。愛のあるチームにまた一段とブランドへの信頼が高まり、改めて大好きになりました」

MUD Jeansの製造工場

MUD Jeansの製造工場

自分一人でエシカルな買い物をするのはすごく大変だから

「私は10年以上の長い間エシカルな服について調べてきました。それはすごく大変なことでした。もし全員が私と同じことをしなくてはいけないとしたら、エシカルな服なんて誰も買わないと思います。靴が欲しかったら何時間も何時間もかけて見つけます。仕事をして帰ってきて子供を寝かせて、就寝する前の1、2時間で探すなんて、大変すぎてもう諦めるしかないですよね。探しても探しても欲しいものは見つからない。そして有名なブランドのエシカルじゃないものを半ば諦めとともに選ぶ。

でも、それは寂しいじゃないですか。だってその人は、自分自身や社会や地球などのために良い選択をしたいという想いを持っていた。それは人類にとってのより良い未来のために大切な一歩です。だからこそ、この場所があればもう検索で苦労をする必要も、選択を諦める必要もない。そう思ってもらえるように、エシカルコネクションズを運営しています」

「今は26のブランド、300以上の製品を扱っていますが、いずれはブランドを100まで増やしたいと思っています。価格、色、サイズ、好み、どれをとっても欲しいと思える服がなにかしらある状態にできれば、きっと多くの人にとって自分に合うエシカルなものが見つかる場所になるはず。そうなる頃には、本当にエシカルなブランドに投票されるお金が増えて、エシカルではないブランドを維持するのは難しくなるはずです。

長い道のりですが、物事を変えるには時間がかかります。例えば僕らが子どもの頃は飛行機の中でタバコを吸うことができた。でもそんな常識、今では想像もできないですよね。いつかは今のファストで非倫理的なファッションの常識も、想像すらできない過去のことになる未来が訪れるように。日本のそして世界のすべてのひとが、あたりまえにエシカルな選択を楽しめる世の中になるように、頑張りたいと思っています」

編集後記

私の日常を見ていたの?そう思うほど、ディーンさんが最後に話してくれたエシカルな選択をしたいのに出来ない人の姿はそっくりそのままいつもの私でした。

夜な夜なスマホの画面をスクロールしながら、これでもないあれでもない、もう嫌だ…と思うまで検索をして最後には諦める。そしてそんな自分が嫌になる。

でも、ディーンさんの言うように、今の世の中や暮らしのなかで、サステナブル・エシカルな選択をしていくのは本当に難しい!

だからこそ、信頼のおけるプロの目や耳を借りながら、自分にプレッシャーをかけすぎず、できる範囲で選択していこう。そんな風に取材を通して思いました。

いつか何も考えずに手に取るもの全てがサステナブル・エシカルなものになりますように。

【参照サイト】Ethical Connections(エシカルコネクションズ)
【参照サイト】People Tree(ピープルツリー)
【参照サイト】ボーダレス・ジャパン / ソーシャルビジネスとは?起業して社会問題を解決。一般企業やボランティア、NPOとの違いは?
【参照サイト】【倫理】と【道徳】の意味の違いと使い方の例文 
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飯塚 彩子

お腹にやってきた子供の未来を想像してから、気候変動や環境問題に課題意識を持つように。今は3歳の子供を育てながら、Lihfehuggerの姉妹メディアであるサステナブルな非日常メディアLivhub(リブハブ)の編集者として活動中。趣味は茶道と本屋滞在。