かつて製鉄で栄えた石見地方。若き鍛冶職人の山口小春氏が、石見地方の温泉津町にある築100年以上の古民家の蔵を改修し、鍛冶工房を開設する。原材料だけでなく燃料も自給し、地域資源の循環の起点となる空間作りを目指す。
現在、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE(キャンプファイア)」にて資金調達を実施中だ。
山口氏は、身体性と地域性を凝縮した野鍛冶の営みに憧れ、その技術を失いたくないという想いから、大学卒業後に鍛冶屋の道に入った。
兵庫県小野市で4年間の修行を経て、自然豊かな温泉津町に移住。「手打ちの強みを活かして使い手一人ひとりの手に馴染む道具を作りたい」という想いのもと、地域資源を活かした持続可能なものづくりプロジェクトをスタートした。
野鍛冶とは、農具・漁具・斧やナタ、家庭用の包丁など、生活に必要な鉄製品を幅広く手がける鍛冶屋のことを指す。
かつてはどの村にも一軒はあったといわれる野鍛冶。村の野鍛冶は農具・漁具・山仕事の道具など、鉄製品を幅広く扱い、近隣住民の生活を支えてきた。用途や使う人の体格に合わせて作られた道具には、地域性と身体性が色濃く反映されている。
金型を使って材料を抜く量産品とは異なり、野鍛冶が行う総火造り鍛造では、ハンマーと金床(かなとこ)を使って鉄を叩き伸ばし、一丁一丁思う形に仕上げていく。
抜き板が出ないので材料のロスが少なく、一人ひとりの要望に合わせた道具を一丁から製作できること、修理やメンテナンスを前提にしているため長く使えることが強みだ。
温泉津町に移住後、地域の方と交流する中で、多くの人が市販の道具を使いつつも、メンテナンスのしづらさや、使い勝手に悩みを抱えていることを知り、野鍛冶の重要性を感じているそうだ。
そんな野鍛冶も、高度経済成長以降、合理化を追求する社会の中で量産品の登場によって徐々にその数を減らし、一人ひとりに寄り添った道具を作る技術も失われつつある。
総火造りの道具はコストと生産量の面で量産品には勝ち目がないからだ。職人の生活を成り立たせるための価格設定では日用品として手が出しにくい。
その一方で、鍛冶屋が食べていけなくては道具の文化が衰退してしまう。道具を作る職人がいなくなるということは、その先の生活やものづくりが損なわれていることを意味する。
このジレンマを解決するヒントは、里山の暮らしにあると山口氏は考えている。
かつて、地域資源と暮らしとものづくりは一つの循環として成立していた。木を間引き、炭を焼き、道具を作り、また山や海や田畑から資材を調達する。暮らしとものづくりを持続していくための自然な流れが里山にはあるのだそうだ。
古民家を改修した工房には、鍛冶場だけでなく、木工所、ギャラリー、キッチンスペースまで併設し、地域資源の循環の起点となる空間作りを計画している。将来的には、木工や竹細工などの職人も受け入れ、複合的な工房として運営していきたいとのことだ。
職人自らが里山に住み、隣接した里山から間引いた木や竹を製材し資材として活用。炭を焼いて鍛冶工房の燃料も自給する。将来的には鉄も自給する予定だ。
また、若手職人に製作の場を提供するだけでなく、職人が主体となって地域の人に技術指導を行いながら雇用を生み出すことで、地域経済の活性化にも貢献していきたいという。
工房は2024年8月にオープンを予定している。オープン後は、地域住民との交流イベントやワークショップなどを開催し、地域コミュニティの活性化や、新しい来訪者たちとの繋がりも生み出していく。
クラウドファンディングでは、工房の改修費用を調達する代わりに、さまざまなリターン(返礼品)を用意した。山口氏が鋳造した三徳包丁や、工房の棟札への名前掲載をはじめ、鍛冶体験ワークショップや里山の木のオーナー権など、このプロジェクトでしか体験できないユニークなリターンが揃っている。
プロジェクトの締め切りは7月31日(水)までとなっている。興味のある人は、ぜひ参加してみよう。
【参照サイト】里山の鍛冶屋から始まる!持続可能なものづくりのための工房
斉藤雄二
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