被災地から伝えたい、今できる災害時の「備え」【関東大震災から100年】

今年は災害の多い夏でした。5月に石川県で奥能登地震が発生、7月には九州や東北で線状降水帯が発生し、さらに9月には台風13号が北関東に浸水や土砂崩れの被害をもたらしました。

年々被害が甚大になる大雨や台風、さらにいつ発生するか分からない巨大地震。災害に備えるため、できることはたくさんありますが、いざ準備しようとすると何からはじめていいかわからないという人も多いのではないでしょうか。

そこで、このたび防災士の小野寺幸恵さんに、今すぐ気軽にできる「備え」の方法について聞きました。宮城県気仙沼市出身・在住の小野寺さんは、2011年3月11日の東日本大震災で被災し、現在被災地の復興に携わりながら、「備える大切さ」について発信を続けています。

非常食のススメ 〜避難所での経験から

2011年3月11日、私は気仙沼市鹿折地区で被災しました。当時、特別養護老人ホームで働いていましたが、日頃の訓練や備えのおかげで、幸いにも全員が無事に施設の2階へ避難できました。しかし、地域の被害は甚大で、この夜、私たちが口にしたのは、施設の売店でかき集めた少量のお菓子のみ。3日間助けが来ない場合を考え、そのお菓子を1日3食×3日×避難者の人数で割り、1回で食べる量を決めました。

翌日、近くの高台にある中学校へ避難しましたが、避難所には多くの人が着のみ着のまま逃げてきていて混乱状態で、食べ物が足りませんでした。備蓄として私たちが持っていた非常食のおかゆや缶詰は施設の入居者の方のものでしたが、少しでも目を離すと四方八方から手が伸びてきて、恐怖を感じてしまいました。当時、私たち施設の職員にとって入居者を守ることが最優先で最大の義務でした。

あの時、避難所では食べ物の差し入れでトラブルになることも多かったと聞きます。食欲は人間の三大欲求のひとつで、生存本能とも深く関わっていると言われますが、空腹になると、不安になったりイライラしたり、他人が羨ましく見えたり…。おにぎり1つ、飴玉1つでさえ、妬ましく思えてしまう、そんな瞬間があることを身を持って経験しました。逆に言えば、飴玉1つで安心することもあるのです。

だからこそ、ひとりひとりが非常食など小さな備えをしておくことが重要です。

非常食というと、何年も保存できてお値段が張るイメージがあるかもしれませんが、長期間保存できるものでなくても大丈夫です。日常生活で口にするものを、1つ2つ多く買ってストックしておくだけで構いません。

私はボトルに、マスクや絆創膏、電池や緊急時の連絡先を書いた紙と一緒に、ミニようかんや塩タブレットを入れて持ち歩いています。小さなお子さんがいるご家庭では、普段食べているようなおやつでいいと思います。また、毎日通勤されている方なら、今日は仕事帰りにコンビニに寄って、飴やミニサイズのようかん、キャラメルなどを買い、通勤バッグの中に忍ばせておきましょう。

手軽に、お金をかけずにできる備えはたくさんあります。みなさん、早速今日から始めてみませんか?

停電時に灯りがある安心感 センサーライトと心の備え

今年も大雨や台風などの被害が相次ぎ、各地で停電の被害が報告されています。普段はあたり前に利用しているインフラが途絶えてしまったとき、慌てず乗り切るための方法を一つ紹介します。

一般的な懐中電灯はもちろん、アウトドア用のランタンを持っている人も少なくないと思いますが、我が家では家族ひとりひとりがLEDライトを携帯し、その他、階段や廊下の数カ所に室内用の小さなセンサーライトを置き、普段から活用しています。

センサーライトを置いたのは、大分県日田市で水害を経験された方から聞いたお話がきっかけです。そのお宅には小さなお子さんが二人いますが、水害を経験した後、雨や停電をとても怖がるようになったそうです。そこで、廊下の子どもの手の届く高さに、タッチ式のライトを複数設置し、普段からそのライトを使うようにしたら、いざ停電が起きたとき、それほど怖がらなくなったということでした。

「普段から使い慣れておけば、いざという時、パニックにならずに済む」。よく耳にする言葉ですが、とても大切な考え方です。特に小さな子どもは環境の変化に敏感で、その時の恐怖が心に焼き付き、時間が経ってから問題行動として出てくることもあります。日頃から災害を意識した環境をつくっておくことで、お子さんへの心理的な負担は軽減できます。

「水浸けパスタ」で災害時もおいしいご飯


災害時の困りごととして、「料理ができない」「自分で手作りしたご飯を食べたい」という被災者の声をよく聞きます。停電が起きるとIH調理器は使えませんし、都市ガスが止まるとコンロの火は使えません。そこで、紹介したいのが、水とカセットコンロのわずかな火だけで調理できる「水浸けパスタ」です。

パスタはチャック付きの袋に入れ、パスタが浸かるくらいの水を入れて、2時間以上おきます。食べる時は袋からパスタを取り出し、沸騰したお湯で1分茹でるだけ。あとはお好みのパスタソースとあえれば完成です。

パスタソースはアレンジレシピがたくさんありますので、難なく消費できますし、使ったら買い足すという「ローリングストック」で、立派な備蓄食になります。

パスタソース以外にも、お吸い物の素やお茶漬けの素で和風のパスタも作れますが、いずれも賞味期限は比較的長いので、自宅での避難生活を意識しながら、普段の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。

小野寺さんが所属する公益社団法人Civic Forceでは、災害が相次ぐ中、「災害は毎年起きる」と覚悟を決めて、災害時にいち早く被災地で支援活動を展開する準備を進めています。詳しくはこちら

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新海 美保

新海美保(しんかい みほ)。出版社やPRコンサル企業などを経て、2014年にライター・エディターとして独立。雑誌やウェブサイト、書籍の編集、執筆、校正、撮影のほか、国際機関や企業、NPOのPRサポートも行っている。主なテーマは国際協力、防災、サステナビリティ、地方創生など。現在、長野県駒ヶ根市在住。共著『グローバル化のなかの日本再考』(葦書房)ほか