土屋鞄製造所のグループ会社であるジュエリーメーカーの株式会社ドリームフィールズは2021年11月、1990年後半から2000年代に生まれた、いわゆるZ世代向けのブランド「GEM EDEN(ジェム エデン)」から、規格外などの理由で使ってこなかった宝石でつくる 「サステナブルジュエリー」を新たに展開することを発表しました。本格的なジュエリーに馴染みのないZ世代でも手に取りやすいよう、彼らの関心が高いサステナブルを組み込んだとのこと。今回は「GEM EDEN」のサステナブルジュエリーについて、その企画背景や狙いについて取材しました。
わずかな傷や欠けによって使われなかった宝石を使用
「GEM EDEN」は国内最多級の天然カラーストーンを取り扱うジュエリーブランド「ビズー」の姉妹ブランドで2021年7月にローンチされました。世界20カ国以上から色とりどりの宝石を買い付け厳選した常時約100種類を宝飾にして販売しています。鉱山主から直接仕入れるといった独自ルートを強みに、国内では「ビズー」でしかほぼ取り扱いのない、入手困難な宝石も扱っています。
そんな石にこだわった「GEM EDEN」から今回発表されたサステナブルジュエリー第一弾商品は、約7個の天然カラーストーンを使うペンダントトップ「K10ペンダントトップ toricago(トリカゴ)」です。
かわいらしい金の鳥かごの中に、約1~11mmの多様な大きさの天然カラーストーンを贅沢に約7個入れた彩り豊かなデザイン。中に入っているのはわずかに傷や欠けがあることから、これまで保管していた高品質な宝石たちです。
傷や欠けのある宝石は露出していると割れてしまうこともあるため、なかなか安心して使うことができません。そのため細かい傷が見えずに色合いを楽しめるというメリットを生かしつつ、石を留めるのではなくカゴの中に入れるという方法で身に着けるアイデアで商品化したそうです。
傷や欠けのある宝石は使われることなく廃棄されることも
わずかに傷や欠けがあって商品になることがない宝石はどのように扱われるのでしょうか。そして世界の宝石ロスの現状とは?株式会社ドリームフィールズ ジュエリー事業部 事業部長の笹谷さんに宝石ロスについて詳しく聞きました。
——ジュエリー作りでは一般的に「規格外などの理由で使ってこなかった宝石」はどのような扱い、処理等されるのでしょうか。
笹谷:宝石には食品のように賞味期限はないため、そのまま残されることも多いです。老舗の会社であれば何十年もそのまま保管されているような宝石も。ジュエリーブランドでは「色」「サイズ」「透明感」などの基準で厳選されたとっておきの一石を使用しますが、その基準から漏れたものでも、「宝石として美しい」ことは多くあります。
そうした宝石の多くは、ジュエリーとして使用されることも廃棄されることもなく世代を超えて残り続けます。傷や欠けなどがひどく、製品としてどうにもできない場合は廃棄されることもあります。私たちはこのように残されたり廃棄されたりする宝石のことを「宝石ロス」と呼んでいます。
——宝石は児童労働や違法労働がはびこる海外の鉱山で採掘されたものも多いため、流通経路を追うのが難しいと聞きました。ビズーやGEM EDENではどのような鉱山主と取引をしているのでしょうか。
笹谷:鉱山主にも個人や複数人での共同保有、採掘から加工までを事業として行う企業など、さまざまなタイプがあります。ビズーで取引のある鉱山主は前者ですが、今後の宝石市場では世界的に鉱山を保有していたり、採掘を行う企業がより大きなシェアを持つようになると思います。
ビズーでの宝石の買い付けは、サプライヤーからの提示価格のみでの比較検討を行わず、彼らがどのように買い付けてきたかや業界内での風評等を確認し、基準を満たしたサプライヤーと取引を行っています。また、人権侵害や環境破壊などに加担しない方法で採掘が行われている宝石の仕入・商品化を積極的に進めています。
「ジュエリー=ステータスを誇示するため」という考えからの脱却が宝石ロス解消へと繋がる
——宝石ロスに向けて世界ではどのような取り組みが進んでいるのでしょうか。
笹谷:残念ながらアパレル業界に比べると、ジュエリー業界ではまだ宝石ロスへの取り組みは進んでいないと実感しています。中古品の買取りやリフォームといったセカンダリー市場は、早くから成熟していますが、宝石ロスに取り組んでいる事例はあまり聞きません。コロナ禍前は年に数回海外に宝石の買い付けに行っていましたが、毎年同じ宝石が展示されて在庫として残り続けているような業者も珍しくありません。こうした宝石を活用してジュエリーに昇華させる発想がまだ浸透していないのだと思います。
そのため今回GEM EDENで始めた宝石ロスの取り組みは、世界の中でも珍しいアプローチだと思います。最近話題になっているのは「リファインメタル」のような金属部分の再利用です。現在のところ、GEM EDENでは宝石ロスへの取り組みだけを行っていますが、将来的には金属部分の再利用も行っていきたいと考えています。
——宝石ロスをなくすためにはどのような各ジュエリー企業の取り組みや消費者の意識が必要だと思いますか?
笹谷:カラーストーンは二つとして同じものは存在しないためジュエリーブランドの多くは、より美しい一石、より希少な一石を求めて宝石を厳選しています。そして業界の基準で「AAA」とされる石だけが選ばれ、そうでない石は残されています。それは消費者にとって望ましい一方で宝石ロスへと繋がります。
残された宝石にも個性があり、それぞれに美しさが宿されている価値を伝え、提供することが必要ではないでしょうか。多様性や個性を重視する社会の価値観の変化に合わせて、宝飾品を「ステータスを誇示するためのアイテム」ではなく、「自分らしさを表現するための存在」として業界全体で盛り上げていきたいです。
GEM EDENからは、ペンダントトップ「K10ペンダントトップ toricago(トリカゴ)」のほかに、大人世代にもファンの多い「ビズー」とのダブルネームのサステナブルリング「color_palette(カラーパレット)」も販売されています。天然カラーストーン9石をリングに連ねたハーフエタニティで、石はルビーやサファイア、エメラルドなど16種類を揃え、カラーは17色を展開しています。
ファッション業界はサステナブルな取り組みが盛んな一方で、ジュエリー業界ではまだまだ宝石ロス解消のための動きが進んでいない昨今。Z世代向けのジュエリーブランド「GEM EDEN」が若い世代に向けてサステナブルジュエリーを発信していくことで、鉱山の労働問題や宝石ロスの課題が少しでも解消されるかもしれませんね。
【参照サイト】GEM EDEN
【関連ページ】土屋鞄が革製品のリユース事業をスタート。職人の技を感じるアップサイクル商品を販売
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