【イベントレポ】マザーハウス20周年。信じ続けた途上国の可能性と、「第二の家」を目指す工場構想

マザーハウス20周年発表会

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」。その理念を掲げ、2006年に創業した株式会社マザーハウスが、2026年3月9日に20周年を迎えます。

2026年1月、東京・秋葉原のマザーハウス本店で「20周年アニバーサリープロジェクト発表会」が開催されました。登壇したのは、代表取締役兼チーフデザイナーの山口絵理子氏と、代表取締役副社長の山崎大祐氏。

創業当時、「途上国=支援すべき対象」という見方が根強かった時代に、現地の素材と職人の技術に光を当て、ビジネスとして対等に向き合う道を選んだマザーハウス。その20年の歩みと、アニバーサリーイヤーに展開される新たな挑戦についてレポートします。

「かわいそう」ではなく「可能性」を届ける、20年の歩み

「20年前、途上国でビジネスをすると言えば『なぜ?寄付でいいじゃないか』と言われる時代でした」

山崎氏は創業当時をそう振り返ります。しかしマザーハウスの原点は、「途上国=貧しい・かわいそう」という視点ではなく、「素晴らしい素材と手仕事の技術がある場所」という可能性に目を向けることでした。

(写真提供:株式会社マザーハウス)

資本金250万円から始まった挑戦は、バングラデシュのジュートという素材との出会いからスタートします。かつて“ゴールデンファイバー”と呼ばれ、同国の外貨獲得を支えてきた素材です。このジュートを使い「かわいい、かっこいいバッグをつくる」という発想が、ブランドの出発点でした。現在ではネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマーを含む6か国に生産拠点を拡大。生産と販売を合わせて約1,000名が働く組織へと成長しています。

創業の地・バングラデシュの自社工場は、現在400名規模となり、同国内で3位の規模へと発展しました。創業当初は生産委託から始まったものの、「対等な関係でなければ、本当に良いものは作れない」という考えのもと、自社工場を設立。安定した雇用環境を整えながら、現地に根ざしたものづくりを続けてきました。

発表会で山崎氏が強調したのは、「経済的なサステナビリティ」の重要性です。単発の大量発注ではなく、継続的に発注し続けること。安定した取引関係こそが、信頼や工場への投資につながるという考えです。「一度大きな注文が入ることよりも、継続して注文があることのほうが大切だ」と語る姿が印象的でした。これまでに販売したプロダクトは約100万個にのぼるといいます。ひとつひとつは小さな商品でも、その積み重ねが大きな変化を生み出してきました。

20周年を彩る新作発表

山口氏から発表されたのは、バッグのジッパーの引手を装飾するレザーアイテム「Zipzip™」(ジップジップ)です(2月13日発売)。

Zipzip

ジッパーをいろどる、新発想のジッパーアクセサリー「Zipzip」

「毎日何度も行う“ジッパーを引く”という行為に、彩りやワクワクを込めたい」。そんな発想から生まれたこのアイテムは、引手自体を革でカバーし、さらに指がかかるフック構造を加えるという新しい設計で、特許出願も行っているとのこと。小さなパーツながら20以上の工程を経て作られる、技術力の詰まったプロダクトです。

全12色展開で、価格は1,980円(税込)。「まだバッグを買えない若い世代にも、新しい入り口になれば」という想いが込められています。

Zipzip

(写真提供:株式会社マザーハウス)

地域に開かれた理想の工場「グリーンファクトリー」構想

発表会ではさらに、2029年完成を目指すバングラデシュの新工場、「グリーンファクトリー」計画についても発表がありました。現在の工場から移転し、郊外の広大な土地に1,000人規模が働ける新工場を建設予定。規模や労働環境の面で、アジアを代表する工場モデルを目指すといいます。

「お金を稼ぐためだけに来る場所ではなく、行きたくなるような“第二の家”のような工場にしたい」と山口氏。従業員だけでなく地域住民も利用できる病院や保育施設の併設も検討されており、地域インフラとしての役割も担う構想です。工場の設計にあたっては、現地スタッフへのヒアリングも重ねながら、ゼロベースで構想を練っているとのことでした。

山口氏

(写真提供:マザーハウス)

アメリカ進出と「分断」へのアプローチ

2025年にはアメリカへのEC展開も開始。実店舗出店は慎重に見極めながらも、オンラインでの販売は想定以上の反響を得ているといいます。山崎氏は、「世界が分断に向かう時代だからこそ、プロダクトを通じて“こういう国がある”“こういう作り手がいる”というつながりを届ける意味がある」と語りました。

また、国内では学校からの依頼や、学生からの「話を聞かせてほしい」という問い合わせに応じるかたちで、講演活動も行っています。全国各地の高校や大学を訪れ、スタッフや店長がそれぞれの言葉で、途上国でのものづくりやブランドの理念について語っているといいます。

若い世代の関心の高まりを感じる一方で、多くの企業が「社会的に良い」と発信する時代の流れに対して、山崎氏は慎重な姿勢も示しました。「社会的という言葉が広く使われる時代だからこそ、本当にそうなのかを見極める力が必要だ」と語ります。関心の広がりと同時に、誤解や表層的な理解も生まれやすい現代において、丁寧に伝え続ける責任の重さがにじむ場面でした。

編集後記

質疑応答で「異文化の中でどう信頼を築いてきたのか」と問われた際、山口氏は「時間が説得力を与えてくれた」と答えました。3年で撤退する企業も少なくないなか、20年間継続して発注し、毎月新しいものをつくり続けてきた事実。その積み重ねこそが、信頼関係の土台になっているのだといいます。

20周年を迎える2026年は、銀座での大規模イベント、ドキュメンタリー映画の公開、バングラデシュ見学ツアーなど、多くの企画が予定されています。

「かわいそう」と捉えられがちだった途上国のイメージを、「かっこいい」「美しい」へと塗り替えてきたマザーハウス。その次なる10年に向けた挑戦が、静かに動き出しています。

【参照サイト】マザーハウス公式サイト
【参照サイト】Zipzip 特設サイト

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Life Hugger 編集部

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