目黒駅は、JR山手線・東京メトロ南北線・都営三田線・東急目黒線の4路線が乗り入れるターミナルです。所在地は品川区上大崎にありながら、品川区だけでなく、目黒区や港区に暮らす人々も日常的に利用する都市の交差点です。住宅地や商業施設、企業、学校が混在し、多様な人が行き交うこの街で、一人の住民の一歩から、地域を変える活動が始まりました。
今回は、一般社団法人めぐもりの代表理事である洪愛舜さんと、設立当初から活動を支えてきた理事の佐藤美江さんに、地域とのつながりから生まれたエシカルな街のクリスマスイベントまでの歩みについてお話を伺いました。

めぐもり代表理事である洪愛舜さん(右)と理事の佐藤美江さん(左)
町内会のチラシが変えた、親子の地域デビュー
2011年に起きた東日本大震災をきっかけに、地域とのつながりの大切さを実感するようになった洪さん。ベビーカーを押して歩いていたある日、ふと地域の掲示板に貼られていた町内会のチラシが目に留まりました。勇気を出して連絡したことが、地域との関わりの第一歩になりました。「震災のとき妊娠中だった私は、自分も子どもも弱い存在で、誰かに助けてもらわないと生きていけないと気づいたんです。だからこそ、普段から地域に貢献できる人間にならなければと思いました」(洪さん)
思い切って町内会に連絡すると、温かく迎え入れてもらい、安心できる居場所を見つけたように感じました。「この地域の方達が町内会活動を長年にわたり続けてくれたことへの感謝も大きいです」(洪さん)

ハロウィンが結んだ、住民と地域の新しい関係
2012年、町内会で知り合った住民たちと子ども会を立ち上げた洪さん。活動が広がるきっかけとなったのがハロウィンイベントでした。「ハロウィンイベントを企画した際、子どもたちに配るお菓子の提供に近隣企業の協力をお願いしようと、一緒に活動w始めたメンバーが目黒駅周辺の企業に声をかけました」(洪さん)
この取り組みにより、地域と企業をつなぐ新しい関係が生まれました。少し規模を拡大した2015年のハロウィンイベントで、さらに重要な気づきもありました。参加者を見ると、品川区・目黒区・港区から親子が集まっており、町内会の活動では見えなかった目黒駅周辺地域の多様性を実感することになったのです。
「子どもと一緒にハロウィンイベントに参加して、そこからお手伝いするようになったんです」(佐藤さん)

佐藤さんとの出会いもこのハロウィンイベントがきっかけでした。行政区分を超えた地域の多様性の発見、企業との新しい関係構築、そして重要な協力者との出会い—そういう意味でも、このイベントは活動のターニングポイントになったそうです。
新聞から会議へ、街の声を集める場づくり
活動を続ける中で「地域の魅力をもっと多くの人に伝えたい」との思いから、2015年にウェブメディア「目黒駅前新聞」を創刊しました。地域の出来事や人々の声を記事にすることで、地域の外にも思いが届き、新しい協力や共感が広がっていきました。
2019年には地域の多様な人々が集まって語り合う「目黒駅前100人カイギ」のプロジェクトを始めました。ここでは、地域に暮らす人、働く人、学生などが立場を超えて集まり、街の未来を語り合うようになりました。「目黒駅は住宅や商業施設、学校、企業や文化施設が混ざり合う地域です。いろんな人が関わるからこそ、面白い出会いが生まれると思います」(洪さん)
こうした活動を通してできた、地域とのつながりが、洪さんと佐藤さんの活動を更に広げていくきっかけとなります。
活動を支える新しい拠点づくり
洪さんと佐藤さんは、2019年に任意団体「目黒駅前wa-sshoy(ワッショイ)!プロジェクト」を立ち上げ、2022年には一般社団法人「めぐもり」として法人化しました。
そうした2人と歩みを共にしてきたのが、目黒駅近くで撮影スタジオ「studio EASE」を運営する株式会社ペンコミュニケーション代表の福島澄男さんです。これまでにも社内の敷地を開放した「E-Park」をめぐもりの活動拠点として提供するなど、住民同士のつながりを一緒に育んできました。

「日々の活動の中で顔を知っている人が増えることが、地域住民の安心につながりますし、それがいざという時の防災の力にもなると思います」(佐藤さん)
めぐもりの活動の基本は地域住民の日常に根づいたローカルな活動です。ここに来れば誰かに会える、何か楽しいことが起こる。そんな地域の期待と信頼が活動の基盤を支えています。「ラジオ体操やフードドライブなど、日々の小さな活動をコツコツと積み重ねることが、ここに人が集まるきっかけとなり、“人と人がつながるっていいな”という思いを共にする人が増えていることにつながっています。それが、後の大きなイベントへつながっているのかもしれません」(洪さん)

地域住民と作るエディブルガーデンも日々の活動の一つ。
「誰かを想う」から始まった、目黒のエシカルクリスマス
同じ2019年、福島さんが「地域を活性化したい」「誰かを想う気持ちを形にできるようなエシカルなクリスマスマルシェを開きたい」と提案したことがきっかけとなり、「目黒街角クリスマス」が始まりました。洪さんと佐藤さんはその思いに共感し企画に加わりました。
エシカルとは、環境や社会への配慮だけでなく、作り手や参加者の想いを大切にすることです。「クリスマスは一人ひとりの想いを形にできる特別な時間。だからこそエシカルが大切なんです」(佐藤さん)

目黒街角クリスマスにはそうした想いを持つ出店者が集まり、来場者と直接つながれる場になりました。さらに、イベント自体をサステナブルにするために、マイバッグやマイカトラリーの持参を呼びかけるなど、ごみを減らす工夫も積み重ねられてきました。
6年間で街角から街全体へ、深く根を張るクリスマス
2019年に始まったエシカルなクリスマスは、今年で7年目を迎えます。「目黒街角クリスマス」として、少しずつ地域に浸透してきた取り組みは、2025年から「Meguro Snow Christmas」へと名前を変え、駅前やMEGURO MARCなどに会場を広げて開催されます。街角で始まった取り組みが、街全体に広がる規模へと発展しました。「私たちのイメージは、拡大するというよりも、”誰かを想う”という気持ちをより深めていき、街中に根付かせていきたいと思っています」(洪さん)
イベントの名称は変わりましたが、根底にあるのは「誰かの想いを大切にする」という変わらぬコンセプトです。「エシカルのような意識や行動はすぐに結果が出るものではありません。でも、少しずつ浸透していけば、数年後、数十年後に社会を変えていけると思っています」(佐藤さん)
町内会の活動からスタートした、想いを紡いでゆくエシカルなクリスマスは、街角から街中に、やがて世界に広がっていくかもしれません。

編集後記
今回の取材は、東京都が推進する「TOKYOエシカル」パートナーとしてのつながりから実現しました。私自身もこのパートナーに加盟する中で「めぐもり」さんの活動を知り、深く共感しました。
町内会から始まった小さな活動が、子ども会、新聞、会議を経て、地域のイベントへと発展していく。そこには常に地域に関わる人たち「誰かの想い」があり、それを形にしようとする人と人のつながりがあります。
そうした地域とのつながりの大切さに気づいたきっかけが子育てだったことは、私自身も同じです。学校、お祭り、防災、介護など、地域の存在を感じる場面も多くあります。取材を通して、改めて、いざという時に地域に頼れるよう、自分も地域の誰かを支えられるような存在でありたいと思いました。
【参照サイト】一般社団法人めぐもり 公式サイト
【参照サイト】Meguro Snow Christmas 2025 公式サイト
【参照サイト】過去のイベント:目黒街角クリスマス
【参照サイト】Studio EASE(STUDIO EASE)
【参照サイト】目黒駅前カイギ(めぐもり公式サイト内)
取材・編集 わだみどり


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