ひとつの木から次々と杉の木が生えてくる!循環型社会の未来へのヒントが詰まった京都の北山杉

日本の茶室文化や和室文化の発展に欠かせない存在であり、日本を代表する最高級銘木のひとつである北山杉をご存じでしょうか。

京都市北西部の山間部で人工的に育成されている杉で、文化的価値だけではなく、循環型社会にも貢献するサステナブルな樹木です。そんな北山杉の魅力を体感すべく、北山杉視察イベントに参加してきました。今回は昨年開催されたツアーの様子をレポートします。

川端康成の「古都」の舞台としても知られる北山地区の北山杉

約600年前の室町時代から生産が始まり、千利休が手がけた日本最古の茶室建造物である国宝「待庵」に使用された、歴史ある北山杉。その北山杉の産地、中川を中心とした京都市の北山地区は、映画やドラマ化されている文豪・川端康成の小説「古都」の舞台として知られています。

北山地区

北山地区は豊かな水と冷涼な環境に恵まれ、杉木を育てるのに適した地であることから、古くから林業が生業とされてきました。

一方で、北山地区には広い川がなく、大木を流して運び出すのが困難であったことから、平安時代は、人力で都に運べるサイズの木が重宝されたそう。また、北山の急な斜面での植林や育林も困難であったなど、これまで、さまざまな課題を乗り越えてきました。

北山杉

そんな北山杉を加工して作られた北山丸太は、緻密な材質となめらかな光沢、干割れが生じにくいといった特長を持ち、茶室や数寄屋の建築用材に好んで使用されてきました。

京都府伝統工芸品にも指定され、その品質の高さは世界一と評されることもあるほど。

北山丸太

なかでも北山杉の表面を砂で磨き、美しい光沢を生み出した「磨き丸太」は、格別です。特殊な加工を施さずに、幹をまるごと丸太として使用できる樹木は、世界的に見ても珍しいのだそう。

加工技術が優れていても、素材が良くなければ良い丸太にはならないことを証明している北山丸太には、建材としての有用性だけでなく、芸術品のような風格が漂っています。

ひとつの木から次々と杉の木が生えてくる「台杉仕立て」とは?

土壌的な課題を解決しつつ、北山杉の価値を高めることになったのが「台杉仕立て」です。ひとつの株から数十本、多いと100本以上もの幹を育てる独特の育林方法によって、植林の回数を減らしながら収穫のサイクルを速めることに成功しています。

台杉仕立て1

手のひらのような形をしている台状の杉の木(樹齢100~200年)を台杉とし、そこから垂直に伸びる木を選んで育成しています。
こうすることで細くきれいな丸太「垂木」が作られていくといいます。

台杉仕立て2

株から細い幹がスッと伸びていく様は、これまでに見たことがない景観です。ひとつの台杉からは、最大約100本もの垂木を育てることができ、景観の美しさから観賞用としても国内外で販売されているのだとか。日本の盆栽を彷彿とさせる、モダンかつ和風な雰囲気漂う様子が話題を集めているそうで、数人の訪日外国人の方がこの台杉仕立ての写真を撮っていました。

北山杉は、これまで交配による品種改良が行われていないことも特長です。母樹は推定樹齢600年を超える「八幡宮大杉」。この枝から挿し木をして育てられ、さらに育てられた杉から挿木をして…を繰り返しながら、連綿と続く母樹の遺伝子を、次の時代に受け継いでいっているのです。

母樹

実際に八幡宮大杉を間近で見させてもらえましたが、太くたくましい幹はまっすぐと天高く伸びていて圧倒されます。600年の歴史を感じるマザーツリーは、これから北山地区のパワースポットとしても人気になっていきそうです。近くで見ているだけでも、エネルギーをもらえたような気分でした。

京都市内には北山丸太を使った建築が点在

丸太は一般的に太いほど大きな断面の柱や梁を得られたり、いろいろな部材がたくさんとれたりするため、価値が高いとされています。

一方で北山杉は、特殊な育成方法や高い加工技術により、細い幹でも市場価値を生み出しています。日照時間が短いため成長も遅く、ゆったりと育てられるなかで、まっすぐかつ強度がある木となります。

また、樹木自体も根と先の太さに差が少なく均等に伸びるため、形状も質も建築材に適しています。年輪が細かいため、木目が美しいという点も魅力です。

鶴屋吉信1

京菓子の老舗「鶴屋吉信」本店にある茶室「游心」は、数寄屋建築の名匠「中村外二工務店」が手掛けたものです。

北山天然絞り丸太と床框の皮付き赤松丸太を取り合わせ、はんなりとした趣の茶室に仕上げていると、代表の中村公治さんは解説していました。

鶴屋吉信2

垂木を並べたような建築が可能なのは、太さに均一性のある北山丸太だからこそでしょう。時間の経過とともに風合いが増し、さまざまな表情を楽しむことができるのも、北山丸太の魅力です。

ごはんや一芯京都店1

磨き丸太の再利用を提案しているのが「ごはんや一芯京都店」です。サイズの違いや傷みといった原因から、建材として採用されず燃料となるはずだった丸太を、柱などに採用しています。

ごはんや一芯京都店2

床材は磨き丸太の4面をパネル状にして中の芯を残し、その芯をスライスして利用。サイズ違いや傷があったとしても、緻密な材質や干割れが生じにくい強度、なめらかな光沢は健在していることがうかがえました。靴を脱いでくつろぐお店だからこそ、足の裏で北山丸太の温かさや質感を感じることができます。

茶室や和室の減少により、北山杉の需要も急減。京都北山の文化遺産を次世代へつなぐ若手も

茶室文化の衰退や一般住宅における和室の減少により、北山丸太の需要は年々少なくなっています。そのため、北山杉の林業や製材産業がいつまで続くのか、先行きが見ない状態でもあるそうです。

木造倉庫群

そうした課題解決の1つが、北山杉の産地の魅力をもっと多くの人に知ってもらおうという取り組みです。北山杉の産地である京都中山地区では、今は使用されていない70~80年前の木造倉庫群や美林景観地域などを見ることができ、京都の新たな観光スポットになる可能性を秘めていると感じました。
椅子

また、昨年オープンしたShinzone表参道本店の店内で使用されるなど、近年建築材料としての需要が減っている北山丸太を、別のデザインや用途に作り替える若手アーティストやクリエーターが増えてきていると聞きます。

また、2019年に立ち上がった一般社団法人北山舎は、”京都北山から巡らせる、しなやかな往来と心地よい循環”をテーマに、北山を拠点に文化遺産を継承しながら、北山の風景と営みを未来につなぐための取り組みを行っています。

歴史や生産過程、再利用の可能性など、知れば知るほどSDGsなポイントが詰まった北山杉。今後は、地域循環やアートやクリエイティブの方面からも、北山杉を活用した取り組みが活発化していきそうです。京都に訪れた際には、ぜひ北山地区に立ち寄り、北山丸太の温もりに触れてみてはいかがでしょうか。


【参考サイト】鶴屋吉信
【参考サイト】ごはんや一芯京都店
【参考サイト】京都北山丸太生産協同組合
【参考サイト】北山舎

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Life Hugger 編集部

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