アーティストが旅をするとき、その細やかな感性のひだでどのように世界をとらえるのだろうか。古い建物に刻まれた悠久の記憶、一筋縄ではない美しさや儚さ、土地の文化とともに生きる人びと、手つかずの森と共存する生物。世界への旅路で、彼らが感銘を受ける場所とは。
イギリス・ロンドンを拠点に活動するアーティスト兼デザイナーのルーク・エドワード・ホール(Luke Edward Hall)氏の作品に、その答えを垣間見ることができる。
1735年にイタリア・フィレンツェで創業した陶磁器ブランド「GINORI(ジノリ)1735」が、ホール氏とコラボレーションしたホームフレグランスコレクション「PROFUMI LUCHINO(プロフーミ・ルキーノ)」を発表した。
プロフーミ・ルキーノは、ホール氏が思い入れのある旅先5か所を舞台にアイテムをデザイン。それぞれの旅先をイメージした架空の館を描き、アロマキャンドル、ラウンドプレート、スクエアトレイ、蓋つきのボックスのデザインに落とし込んだ。
それぞれの生活様式やたたずまいから漂う香りから記憶をたどり、インスピレーションを得た同コレクションは、空想的な旅の記憶、見たことのないおどろきの記憶や、日常生活に新たなビジョンをきり拓く招待状として未知の世界へいざなう。
それでは、彼が愛した旅先5か所をめぐっていこう。
コッツウォルズ(イギリス)
イギリス出身のホール氏がまず選んだのは、同国中央部に広がる丘陵地帯コッツウォルズ。コッツウォルズ(羊の丘)の名のとおり、羊毛の交易で栄えた地だ。映画・ハリーポッターのロケ地としても知られている。
緑の丘には、現地で採取したはちみつ色のコッツウォルズ・ストーンで造られた家々がつらなり、まるで絵本から飛びだしたような世界観。古きよきイギリスの田園風景が広がっている。
コッツウォルズを想起した「FOX THICKET FOLLY(フォックスチケットフォリー)」の香りは、くぐもった文学的な景色が浮かぶ、ウッディスモーキー。
季節は秋。霧に包まれた森の奥深くに、幻想的なゴシック様式の建物 “ 気まぐれ” が佇んでいる。それが、フォックスチケットフォリー。室内では、閑散とした大広間がキャンドルの暖かい光と暖炉の炎に照らされており、その周囲には本の山という山。一方、裏庭では、庭師が焚き火をしている。今宵、この古代の森で何かあるかもしれない。
JP – Fragranze – Fox Thicket Folly | GINORI 1735から引用。
マラケシュ(モロッコ)
モロッコ中央部の都市、マラケシュ。アフリカ大陸北部に広がる世界最大の砂漠・サハラ砂漠の西に位置しており、近年ではマラケシュからサハラ砂漠へラクダで移動する観光ツアーが人気だ。
マラケシュには大きく分けてメディナ(旧市街)とギリーズ(新市街)がある。メディナには、古いモスクのクトゥビアやバヒア宮殿といった伝統ある豪華な建造物があり、ジャマ・エル・フナ広場の巨大なスーク(市場)には食品や日用品、色とりどりの雑貨がひしめく。
マラケシュを想起した「LA GAZELLE D’OR(ラ ガゼルドール)」の香りは、ローズやミントに彩られたフローラル ハーバル。
路地、アーチ、トンネル、袋小路、狭い隙間、階段。ピンクとブルーの色彩が幻覚を引き起こす魅惑的な禁断の喜びの迷宮、それがメディナ。彼はこの迷宮で道に迷い、その明るさを失なってしまった。でもしばらくすれば、ラ ガゼルドールにて、ブルーに染まった両手でミントティーを飲む彼の姿を発見できるだろう。
JP – Fragranze – La Gazelle D'or | GINORI 1735から引用。
ラジャスタン(インド)
インド北西部に位置する国内でもっとも大きな州、ラジャスタン。州内西部にはタール砂漠があり、さらに西にはインダス川が流れている。さまざまな王朝が興り、王らが築いた6つの丘陵城塞郡は世界遺産に登録されている。
ラジャスタンの州都ジャイプールは「ピンクシティ」と呼ばれ、マハラジャ(偉大な王の意)の宮殿や城壁、建物はピンク色の赤砂岩で造られている。当時の建築様式や細部の装飾は圧巻の美しさ。
ラジャスタンを想起した「RAJATHRA PALACE(ラジャトラパレス)」の香りは、カルダモン、クローブ、シナモンなどエキゾチックなスパイスに、ローズが爽やかに香るフローラル スパイシー。
1948 年、マハラジャがミュンヘンへ旅立つと、老朽化した館は閉鎖されてしまった。しかし、大理石から成るその館は日々清掃され、美しく磨かれ、伝説のバラ園では水やりと手入れが成されている。城壁の上では、守衛が今も湾曲する表通りを見張りながら、馬車の行列が巻き起こす砂埃に目を光らせている。
JP – Fragranze – Rajathra Palace | GINORI 1735から引用。
ビッグサー(アメリカ)
米・カリフォルニア州ほぼ中央に位置するビッグサーは、太平洋に面した約144キロメートルにわたる海岸線エリアだ。太平洋岸を前にそびえ立つのは、サンタルシア山脈の断崖。山々をつなぐ地上79メートルの高さにかかるビクスビークリーク橋は、20万ドル強の費用をかけ1932年に開通した有名な絶景スポットだ。
砂浜に赤紫色の天然石ガーネットがふくまれるファイファービーチ、海岸沿いに自生するレッドウッドの森や、砂浜に流れ落ちる高さ24メートルの滝が望める州立公園など、手つかずの雄大な自然が広がっている。
ビッグサーを想起した「RAIN ROCK CREEK(レインロック クリーク)」の香りは、樹木の間に吹き抜ける潮風を思わせるフゼア。
夜明け。ウッド造りの建物に一筋の陽光が差し込み、床に伸び広がる。屋外の広大な渓谷では、枯葉が足元でカサカサと音を立てる。木々の間からは、遠く、海外からの波の音が聞こえてくる。紺碧の太平洋夜明け。ウッド造りの建物に一筋の陽光が差し込み、床に伸び広がる。屋外の広大な渓谷では、枯葉が足元でカサカサと音を立てる。木々の間からは、遠く、海外からの波の音が聞こえてくる。紺碧の太平洋。
JP – Fragranze – Rain Rock Creek | GINORI 1735から引用。
ヴェネツィア(イタリア)
イタリア北東部の都市、ヴェネツィア。小さな島々からなり「水の都」と呼ばれるヴェネツィアでは、建造物の間を運河が流れ、ゴンドラや舟が往来する。中世には海上貿易で繁栄しており「アドリア海の女王」とも呼ばれている。
その独特の美しい景観は世界遺産にも登録され、古くから多くの戯曲や映画の舞台としても親しまれてきた。芸術の歴史は長く、1895年より続く国際美術展覧会「ヴェネツィア・ビエンナーレ」は世界最古のアートの祭典だ。
かつてナポレオンが「世界でもっとも美しい広場」と称したサン・マルコ広場に寺院、宮殿、島ごとに特色の異なる建物や家々など、街全体が中世の美術品のよう。
ヴェネツィアを想起した「PALAZZO CENTAURO(パラッツォ チェンタウロ)」の香りは、古代から聖なる香りとして用いられたオリバナムが漂うウッディ、インセンス。
大運河に現れるメランコリックなさざ波。サルーテ寺院のクーポラは霧の中に浮かび上がり、大海原の香りに包まれる。蝋燭の蝋が主祭壇に流れ、アーチ状の天井は香りの闇に包まれる。色褪せたベルベットとクリスタルの閃光。館の屋根裏に閉じこめられた伯爵夫人は、杉の木でできたトランクを開ける。中には煌びやかなシルクの帯が。
JP – Fragranze – Palazzo Centauro | GINORI 1735から引用。
ホール氏初来日のライブペインティングイベント
今回初来日となるホール氏のライプペインティングイベントが1月30日、ユナイテッドアローズ六本木ヒルズ店で行われた。
ホール氏は真っ白いキャンバスに描いたふたつの館に、あたたかな色彩をのせ「TOKYO」の文字を加えた。
時おり全体を眺めて思いをめぐらせながら、イマジネーションを忠実に描きだすよう筆をすべらせる。彼の目に東京は、日本はどのように映ったのだろうか。ライブペインティングを終えると、ホール氏はキャンバスを背に、ゆたかな笑みを観客に向けた。
プロフーミ・ルキーノをはじめ、ホール氏が手がけたコレクションアイテムは、ジノリ1735の公式オンラインストアにて閲覧、購入できる。2月28日までユナイテッドアローズのオンラインストアでも一部購入可能だ。
あらゆる時代や国を横断し、現実と非現実を行き来することで表現されたアーティスト作品は、日常のなかで我々を夢心地へといざなう。しばし日常を離れ、旅先に思いをはせる幸福を彼は教えてくれることだろう。
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Livhub」からの転載記事です。
【関連ページ】Collezioni – Profumi Luchino | GINORI 1735
【関連ページ】デザイナー:ルーク エドワード・ホール | GINORI 1735
【関連ページ】GINORI 1735 at UNITED ARROWS | 特集 |ユナイテッドアローズ公式通販 – UNITED ARROWS ONLINE
秋山 綾
最新記事 by 秋山 綾 (全て見る)
- 米袋で製作したバッグ「カムサック」登場。岩手から日本農業の技術を発信 - 2023年3月17日
- セイコーの機械式腕時計のしくみを学ぶ展覧会「テンちゃんのひげぜんまい」6月4日まで開催 - 2023年3月16日
- 英国人アーティストが愛した旅先5か所をめぐる。イタリア名窯ジノリ1735の新コレクション - 2023年2月22日