6才でもできる「ヘアドネーション」で病気の子どもたちに思いを馳せる

さまざまな事情で髪に悩みを抱える人のために、髪の毛を寄付する「ヘアドネーション」。脱毛症や欠毛症、小児がんの治療など病気の子どもたちにウィッグを贈る取り組みとして少しずつ認知されるようになりましたが、ウィッグを必要とする子どもたちはまだ大勢います。

ヘアドネーションの目的や意義について、6歳の子どものドネーション体験記とともに、お伝えします。

初めての「ヘアドネーション」

突然ですが、我が子は6才。長い髪がお気に入りで、三つ編みにしたり、ポニーテールにしたり、自分で髪を結う練習が日課です。そんなある日、突然「切りたい!」と言うので、美容院で切ってもらうことにしました。長い間、前髪以外は切ったことがなく、後ろ髪はお尻近くまで伸びていて、測ったところ60cm近くありました。

「この長さならいけるかも!?」 以前に知人から聞いたヘアドネーションの話を思い出し、早速行きつけの美容院に電話。OKの返事がありました。

特定非営利活動法人Japan Hair Donation & Charity(通称ジャーダック)によれば、ウィッグの製作には「31cm以上の長さが必要」とのこと。カット後のヘアスタイルを美容師さんと相談しながら、寄付する長さを「31cm」と決めます。

まず乾いた髪を小さく束に分けてゴムで強めに結び、結び目の1cm上をカットします。この時、少しでも湿り気があると、カビや雑菌の原因になるため、シャンプー前にカットするのが良いそうです。

カットした髪は、ドナーシートと一緒に封筒に入れて切手を貼って、ポストに投函。ドナーシートは、ドナーの毛髪状態を確認するためのもので、性別や年齢などを書くだけの簡単なシートで、提出は任意です。

髪の毛の送り先は、大阪に事務所を構えるジャーダック。ヘアドネーションという言葉がまだ日本であまり知られていなかった2009年、美容師さんが設立したNPO団体です。ドネーションで集まった髪の毛は提携工場でトリートメント処理された後、ジャーダックで適切に保管、ウィッグ製作時に随時、協力企業であるアデランス・タイ社に送られます。ウィッグは利用者の頭のサイズを採寸したデータを基に製作しますが、その過程はすべて手作業。熟練の職人さんによってひとつひとつ丁寧に作られています。詳しくはこちら

病気や事故で髪を失った子どもたちのために

ウィッグ製作の様子 (JHD&Cホームページ内チャリティコラボレーション「アデランス」ページより)

ヘアドネーションは、病気や事故などで髪の毛を失った子どもたちのために、医療用ウィッグを無償で提供する活動ですが、そもそも背景にはどんな課題があるのでしょうか?

年間2,000~2,500人────。これは、日本で小児がんと診断される子どもの数(国立がん研究センター調査)で、現在16,000人近くの子どもが小児がんと闘っていると言われます。小児がんは15歳以下の子どもに発生する悪性腫瘍で白血病や脳腫瘍などの種類がありますが、抗がん剤や放射線治療によって髪の毛が抜けることがあります。

小児がんだけでなく、脱毛症や抜毛症などさまざまな理由で髪の毛を失った子どもたちは、以前とは異なる自分の姿にショックを受けて、塞ぎ込んでしまうことがあります。外に出かけたり、友だちと遊んだり、そんな当たり前のことができなくなってしまい、髪がないことでいじめや引きこもりにつながってしまうケースまであります。

そこで活躍するのが、医療用ウィッグです。抗がん剤治療や円形脱毛症に悩む人たちを応援するために作られたウィッグで、2015年には「医療用ウィッグJIS規格化制定(JIS9623)」が成立。医療用ウィッグや附属品に関する外観、性能、試験方法などを規定したJISの制定によって、性能基準が明確となり、医療用ウィッグを必要としている人が安心して入手・使用することが可能に。全国の自治体で購入費用を助成する取り組みも進んでいます。

「ウィッグを必要とする子どもたちへの無償提供活動はもちろん、ヘアドネーションを通して頭髪に悩みを持つ子どもたちがいると広く知ってもらうことも、私たちの責務と考えています」と語るのは、ジャーダック事務局の今西由利子さん。髪の有無に関わらず子どもたちがのびのびと日常生活を送り、ウィッグをつけることもつけないことも、自己表現の選択肢の一つとして尊重される社会の実現を目指して活動しています。

認知が広がるヘアドネーションの取り組み

「サステナビリティに関する意識調査」より(ホットペッパービューティーアカデミー)

2023年11月に実施された「サステナビリティに関する意識調査(美容サロン1年以内利用者15~59歳 女性2,634人、男性1,311人、複数回答)」(実施機関:美容に関する調査研究機関「ホットペッパービューティーアカデミー)によれば、利用者が求める美容サロンのサステナブルな取り組みの第一位は「ヘアドネーション」。特に、15~19歳のスコアが他の年代の2倍近くに達しています。

近年、ヘアドネーションの認知度の高まりとともに、「ヘアドネーションをやってみたい」と髪を伸ばす子どもたちもいるようです。背景には、ヘアドネーションの受け入れ団体が増えていることがあげられます。また、2021年から中学校と高校の保健体育の学習指導要領に「がん教育」が盛り込まれたことで、がんという病気やがんで苦しむ人のことを知る授業、啓発ワークショップなどが各地で開かれ、ヘアドネーションの認知度も広がっているようです。

ヘアドネーションを呼びかけている団体や啓発イベントなどを実施している団体・企業の情報をまとめました。

特定非営利活動法人Japan Hair Donation & Charity(通称:JHD&C,ジャーダック)

頭髪に悩みを抱える18歳以下の子どもたちに、寄付された毛髪のみを用いて製作した医療用ウィッグを無償提供している団体。日本で初めてヘアドネーションを専門に行うNPO法人として、2009年に設立されました。https://www.jhdac.org/

NPO法人HERO

2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに設立された団体。宮城県、福島県、岩手県の被災三県の保育施設などでオリジナルヒーロー“破牙神ライザー龍”を起用して、「交通安全教室」「防犯教室」「防災教室」「ストップ地球温暖化教室」などのボランティア活動を行っています。2016年より、病気やケガによって髪の毛を失った全国の子どもたちに、完全オーダーメイドの人毛による医療用ウィッグをプレゼントする“ヘアドネーションプロジェクト”を推進。https://hairdonation.hero.or.jp/hair/

つな髪プロジェクト

医療用ウィッグ専門店を運営する株式会社グローウィングの「つな髪プロジェクト」は、18才以下の子どもたちに医療用ウィッグを無償で提供。ヘアドネーションを通して医療用ウィッグについて学べる夏休み授業やイベントなども開催しています。https://www.organic-cotton-wig-assoc.jp/flow

fino ウィッグBank

株式会社ファイントゥデイが展開するヘアケアブランド「フィーノ」が展開するプログラム。ヘアドネーションを募り、集めた髪を医療用ウィッグ製作のために提供する取り組みです。https://brand.finetoday.com/jp/fino/hair_touch_you/

特定非営利活動法人 Alopecia Style Project Japan

円形脱毛症、先天性縮毛症・乏毛症、抜毛症、治療の副作用など、様々な理由により髪に症状を持つ人やそのご家族の交流会、コミュニティ運営(登録者数4345人、2022年8月時点)、小中学校や美容専門学校での講演事業を行うNPO法人。髪の有無などの症状ではなく、その人自身が持っている本来の個性にフォーカスしあえる関係性を築くための活動をしています。https://aspj.site/

1つのウィッグを作るために必要な髪の毛の量は30人から50人分。製作には長い時間がかかります。ヘアドネーションを初体験した我が子とは「切った髪の毛が誰かの役に立つといいね」と話しています。

年末年始、「髪もさっぱりしたい!」と美容院に行く人が多いかもしれませんが、ぜひヘアドネーションを検討してみてください。

【参照サイト】NPO法人 JHD&C(ジャーダック)ホームページ

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新海 美保

新海美保(しんかい みほ)。出版社やPRコンサル企業などを経て、2014年にライター・エディターとして独立。雑誌やウェブサイト、書籍の編集、執筆、校正、撮影のほか、国際機関や企業、NPOのPRサポートも行っている。主なテーマは国際協力、防災、サステナビリティ、地方創生など。現在、長野県駒ヶ根市在住。共著『グローバル化のなかの日本再考』(葦書房)ほか