貧困の中で見つけた幸せの本質。DAREDEMO HERO スタディーツアーの記録

「フィリピンの貧困の実情を知り、自分に何ができるかを考える」——そんなテーマを掲げたNPO法人DAREDEMO HEROのスタディーツアーに参加するため、セブを訪れた。

この団体を知ったのは3年前のこと。ハーチ株式会社が運営する寄付プロジェクト「UU fund」を通じて寄付を行ったことがきっかけだった。それ以来活動を追い続けてきたが、今回初めて実際に現地を訪れる機会を得た。

ツアーの目的は、「貧困の現実を理解し、私たちに何ができるかを考えること」「フィリピンの幸せについて学び、自分自身を見つめ直すこと」。ただ「観察」するのではなく、本当に「体験」し、その瞬間に立ち会うことを意識した。実際に足を踏み入れたセブの貧困地域には、想像をはるかに超える現実があった。

楽園から貧困までわずか5分

セブは日本から近いリゾート地として知られるが、その光と影のコントラストには驚かされた。豪華なホテルが立ち、美しいビーチやプールが広がる観光エリア。しかし、そこから車で5分も走ると、まったく異なる世界が広がっている。

フィリピンでは人口の約60%が貧困の状態にあり、そのうち30%は極度の貧困に直面している(出典:DAREDEMO HERO公式HP)。

特に最貧困層の家庭は、月収1万円以下で生活している人々が多く、その日の食事を確保するのさえ困難な状況だ。

ゴミ山や墓地で生きる子どもたち

今回のスタディーツアーでは、セブのイナヤワン地区とカレタ墓地を訪れた。

イナヤワン地区はかつて大規模なゴミ処理場があった地域で、今もなお、多くの子どもがゴミの中から食べ物や売れるものを探して暮らしている。朝から晩まで、炎天下でゴミの山を掘り返す。足元は不安定で、悪臭が漂い、細かい埃が絶えず舞い上がる。その環境に一歩足を踏み入れただけで、肌に刺さるような熱さと刺激臭に圧倒された。

イナヤワン地区の様子

一方、カレタ墓地では、墓石の上で生活する子どもの姿があった。墓に供えられた食べ物や墓参客からの施しを頼りに生き、教育の機会もほとんどない。貧困の連鎖がここでも続いている。

カレタ墓地の様子

お腹の赤ちゃんがすでに亡くなっていたことを、3か月も知らずにいた妊婦の話も聞いた。健康状態は深刻で、医療を受けることもままならない環境があった。

教育こそが未来を変える鍵

こうした状況を変えようとDAREDEMO HEROは活動している。教育支援を通じて、貧困層の子どもが未来を切り拓く力を身につけることを目指している。

貧困地域に設置されたラーニングセンターでは、学校に通えない子どもが読み書きを学び、基礎的な教育を受けることができる。また、学習意欲の高い子どもには奨学金を提供し、高等教育の道を開いている。

現在、約90名の子どもたちが支援を受けているが、資金が限られる中で、特に強い意志を持つ子どもを優先して選抜している。

ラーニングセンターの様子

小さな部屋の4人家族

ツアーの一環として、私たちは現地の学校を訪れた後、14歳の奨学生の自宅を訪問した。

彼女が暮らすのは、スラム街としか言いようのないような場所の、手作りのようなアパートの奥深くにある一室。両親と妹の4人で生活しているが、部屋は驚くほど狭く、勉強するスペースを確保するのも難しい環境だった。それでも彼女は、看護師になるという夢を持ち、学び続けている。

DAREDEMO HEROでは、こうした子どもを支援するために、ラーニングセンターの運営資金を募る「ドリームサポーター」や、個別に奨学生を支援する「里親会員」という制度を設けている。今回のツアー参加者の中には、5年前から里親会員としてこの奨学生を支援している女性がおり、彼女が初めて奨学生と対面する場に立ち会った。そのとき、奨学生の少女は涙を流しながら、日々の感謝を伝えていた。貧困に対して何か行動を起こしたいと寄付し続けている女性に心を動かされるとともに、奨学生の「受け取る側」としての感謝の想いにも心打たれた。

今この瞬間に喜びを見出す

ツアーを通して最も印象的だったのは、フィリピンの人々が「今を楽しむ」ことをいかに大切にしているかということだ。貧しい生活環境にもかかわらず、訪れたどの場所でも、人々は笑顔で私たちを迎えてくれた。

3年前、セブは巨大台風に襲われ、多くの人が家を失い、長い期間ライフラインを絶たれた。しかし、そんな状況下でも、人々は笑顔を絶やさなかった。

「悲しみを表に出せば、周りも悲しくなる。だからこそ、笑顔でいることで、生きていることや今あるものに感謝するのです」

その考え方に、私は深く衝撃を受けた。

台風被害を受けた際の様子

また、フィリピンの子どもがどんな遊びでも全力で楽しんでいる姿にも心を打たれた。ゲームにも真剣で、自分が一番楽しむと決めたら、思い切り遊ぶ。そして、後ろで取り残された小さな子どもがいると、自然に手をつないで前に出してあげる。日本ではなかなか見られない光景に、温かさと優しさを感じた。

ただの支援ではなく、共に生きる

DAREDEMO HEROの代表・内山順子さんは、力強く語ってくれた。

「かわいそうだから支援するのではありません。私はフィリピンの人々を深く尊敬し、彼らから多くの幸せを受け取っているからこそ、この活動を続けているのです。奨学生たちが夢を実現するまで、私は絶対に面倒を見ます!」

その言葉どおり、内山さんは誰よりも積極的に現場で動き、支援活動の最前線に立ち続けていた。これまでは目の前の支援に全力を注いできた彼女だが、今後は、たとえ自分に何かあってもDAREDEMO HEROの支援が持続できる仕組みを作ることに注力していくという。

支援の本質は、「かわいそうだから助ける」のではなく、「共に生きる」こと。その想いを強く感じた。

幸せとは何かを考えさせられた

帰国後、「いただきます」「ごちそうさま」を、以前よりもずっと心を込めて言うようになっている自分に気づいた。

日本では、便利で清潔な環境の中、多くのものが手に入る。しかし、セブで出会った人々は、日本人よりもずっと幸せそうに見えた。

幸せは、多くのものを持つことではなく、家族を大切にすること、自分を好きになること、今あるものに感謝すること——そんなシンプルな生き方こそが、本当の幸せなのかもしれない。

セブで過ごした1週間は、インターネットや数字では伝わらない現実を目の当たりにし、本当の幸せとは何かを考える貴重な時間となった。

DAREDEMO HEROでは、より多くの子どもたちが教育を受けられるよう、寄付を呼びかけている。セブの未来に投資する——それもまた、自分にできる小さな一歩かもしれない。

【参照サイト】NPO法人 DAREDEMO HERO

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Chiaki

子育てをきっかけに、子どもを取り巻くさまざまな現状・課題に関心を持つ。所属するハーチでは、人事・労務などのバックオフィス業務や、サーキュラーエコノミー特化型スタートアップ創業支援プログラム「CIRCULAR STARTUP TOKYO」の運営などに従事。趣味は南の島のビーチリゾートで暮らすように過ごすこと。