「ミドリムシ(学名:ユーグレナ。以下「ユーグレナ」)」という名前は、誰もが一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。藻の一種であるユーグレナを主に活用した食品や化粧品の販売、バイオ燃料の製造開発等を行っているバイオテクノロジー企業が株式会社ユーグレナです。
同社は2022年10月12日に「サステナビリティの実現を目指すヘルスケア素材の新展開」と題したオンライン説明会を実施。登壇者である、株式会社ユーグレナの創業メンバーであり執行役員でもある、ユーグレナヘルスケアカンパニー長の福本拓元氏から、同社が今後展開するユーグレナ以外の新たなサステナブル素材の紹介と同社が構想するサステナブルな未来についてお話を伺いました。
「ミドリムシ」の会社から「サステナビリティ・ファースト」の会社に
同社は創業15年にあたる2020年に「ミドリムシ」の会社から、「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」の会社へフィロソフィーを刷新し、事業展開をしていくことを発表しました。
ユーグレナだけに特化するのではなく、ユーグレナをはじめとしたさまざまなバイオマスを研究、開発、活用してサステナビリティな未来を構築すること。すべての素材や事業がサステナブルであるか否かという軸を必ず持つこと。そして、同社の事業が拡大すればするほど社会課題を縮小することができるか否かを基準とした事業戦略を取ることだと福本さんはいいます。
「以前『人と地球を健康にする』と言っていた頃は、環境問題と栄養というわかりやすい視点でしたが、『サステナビリティ・ファースト』に変えたことで、改めて我々もサステナビリティについて捉え直しました。そこで出た結論が『当社が成長した分、世の中がよくなる』というフィロソフィーです。
地方活性や貧困問題の解決など、自我のためだけにお金儲けをするのではなく、社会や地球のために事業をして拡大していく。その上で道を見失わないようにするために、やはり『人と地球を健康にする』を目指す方向とし、パーパスを示しました。これからも世の中がよくなることであれば、進んで事業拡大して取り組んでいきたい」と福本氏は語っていました。
サステナブル素材「カラハリスイカ」とは?島根県のブランド生産品としての展開を目指す
「ミドリムシ」のイメージが強い同社。しかし日々さまざまなサステナブルな素材を研究、開発しており、今回の説明会では今後より一層力を入れていくという二つの素材が紹介されました。
まずはカラハリスイカです。これはアフリカ南部に位置するボツワナ国土のうち、70%を占めるカラハリ砂漠に自生する野生種スイカの一種。カラハリ砂漠という過酷な環境で育つだけあって、保水能力に優れていることや、強光や乾燥、高温に強く、腐敗しにくいといった特徴があります。
収穫後、適した保管条件であれば、数年もの間、腐ることがないこのカラハリスイカの国内栽培に同社は成功。島根県のグループ会社であるキューサイファームにて自社栽培をスタートさせています。カラハリスイカを地域に根差したブランド生産品として、事業拡大を目指していく方針を打ち出しています。
「カラハリスイカは保水作用や利尿作用、血流促進作用などがあるので、水や血のめぐりをよくし、抗酸化作用によって皮膚細胞の紫外線障害緩和やアルコール性および脂肪性肝炎などの予防効果も期待されます。すでにサプリメントや化粧品などに活用していますが、まだまだ未知の領域を多く含んでいる素材なので、今後も研究と商品開発を進めていきたいと思います」(福本氏)
「ミドリムシ」と麹菌を掛け合わせた「ミドリ麹」で秋田県の地域活性や健康寿命の促進に
そしてもう一つの注目素材が「ミドリ麹」。これは麹菌にユーグレナを混ぜ合わせたものです。以前からユーグレナと乳酸菌の相性の良さは研究課程で実証されており、麹菌に着目したことからミドリ麹の研究、開発が始まったそうです。
100年以上続く種麹屋「秋田今野商店」と共同研究の結果、麹菌とユーグレナを合わせることで麹菌の発酵が活性化され、さらに細菌活性の力が強くなるのだとか。現在ではミドリ麹の商品開発などを推進しています。
「秋田県が行う『ローカルイノベーション誘発促進事業』において、『ユーグレナと秋田の素材を用いた新規発酵食品等の研究開発』というテーマで取り組んだ研究です。
一般的な麹よりも高いポテンシャルを持つことから、ヘルスケア分野での活用が期待されているだけではなく、秋田県内に根差した産業復興や地域活性に寄り添う役割も大きいと考えています。地域振興のための商品開発、伝統文化の維持に加えて、高齢化が進む秋田県においてミドリ麹の持つ健康維持や健康寿命の延伸に貢献していきたいです」(福本氏)
株式会社ユーグレナ
2005年12月に世界で初めて微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用野外大量培養に成功。その後は食品として大量培養の技術をもって、それを軸としたヘルスケア事業を展開。「人と地球を健康にする」という企業理念を掲げ、OEM受託製品や自社通販製品、コラボ商品の開発や販売などを通して200億市場にまで事業を拡大。
2019年には主力素材であるユーグレナとクロレラが「ASC-MSC 海藻(藻類)認証」を世界で初めて取得。ASC認証とは環境と社会に配慮した、責任ある養殖方法で生産された水産物を対象とする国際認証制度であり、MSC認証は持続可能で環境に配慮した漁業で獲られた水産物を対象とする国際認証制度です。藻類では初めて国連が定めた世界共通目標の「SDGs」に貢献する食材として認定されています。
まとめ
株式会社ユーグレナはサステナブルな世の中を実現するために、バイオマスを軸とした素材の研究を続けています。これだけではなく、「ユーグレナGENKIプログラム」において、売上の一部で豊富な栄養素を持つユーグレナ入りクッキーをバングラデシュの子どもたちに無償で配布する取り組みも行っています。
福本氏は最後に「一般的に企業は収益を上げることを目的としていますが、我々は美しい地球のために商品を製造して、売上が上がれば上がるほど世の中が良くなる構造を作っています。この構造の実現を確信して、これからも新しい素材の開発と事業を展開していきます」と説明会を締めくくっていました。
「サステナビリティ」という言葉が広まれば広まるほど、企業がサステナビリティに取り組む上で具体的に何を大事にしていくのかというビジョンが不明瞭になってしまいがち。「サステナビリティ」と本気で向き合わなければ、綺麗事ばかりが並んでしまうことだってあるでしょう。
そんななかで株式会社ユーグレナは、「当社の成長が社会課題の縮小につながる事業を展開すること」を明言していました。ユーグレナ以外の新素材や同社の今後の取り組みに、ますます注目が集まりそうです。
【参照サイト】株式会社ユーグレナ