【海をわたる往復書簡 ハワイー高知 #5】始まりの季節、わが家のスタート

春は始まりの季節ですね。

入学や進級、就職に引っ越し。
あたらしい環境にむけての、期待と不安。
きっと誰もがそんな春を迎えたことがあるのではないでしょうか。

この春、わが家ではスタートしたことが二つあります。

障害のある息子の自立

ひとつ目は、障害を持つ息子、Kの自立。

特別支援学校を卒業して、福祉事業所で働き始めました。暮らしのベースは、共同生活のグループホームを選び、週末は自宅で過ごします。

卒業の記念撮影。大好きな祖母にもきてもらいました

卒業旅行は家族で高知の西、土佐清水へ

自立とは言っても、福祉サービスやたくさんの方々に支えられての「親からの自立」。「やっとここまでたどり着いた」という安堵と同時に「大丈夫だろうか…」という心配も。
どきどきしながら見守っています。

私たちが通ってきた進学や就職といった道とは、まったく違う人生を歩み続けているK。子育ては正直なところ、大変なことの連続でした。同時に彼の存在が世界をぐっと広げてくれました。

たくさんの方々の善意に支えられ、励まされてきた18年間。関わってくださった方々には感謝しかありません。

これまで与えられたギフトをどうやって私たちから次につないでゆけるだろうか、と考えはじめています。

ゲストハウスをはじめます

もうひとつのスタートは、ゲストハウス。

南インドに住んでいた頃、オーロヴィルというエコビレッジを訪ね、すばらしい宿に滞在しました。

周囲の緑、部屋のしつらい、朝の光の中での朝食。決して豪華ではなく、むしろ必要最小限。そのシンプルさが心地よく、満ち足りた数日間を過ごしたことが忘れられません。

オーロヴィルの宿にて

余分なものが一切なく、あるのは自然の豊かさと、簡素で質の良い備品ともてなしの気持ち。

滞在を終えて、「いつかこんなゲストハウスをやりたい」と言い出したのはパートナーの雄一郎さんでした。一方、当時の私は「お宿は大変だからぜったい無理」とまったく取り合いませんでした。

その後に続く移住、めまぐるしい暮らしの変化の中では、とてもゲストハウスどころではなかったのです。

そんないきさつがあってから10年以上が経ち、この春にゲストハウスをゆるやかにスタートしました(本格稼働は夏を目指しています)。これもきっと「今ならできる」というタイミングなのかな、と思っています。

ゲストハウスは「暮らすように滞在する」をテーマにした一棟貸し。家の壁も、床も、家具も、すべて私たちが住む市内の木で作られています。

高知の自然の中で、木をふんだんに使った空間で過ごしながら、朝の空気の清々しさも、夜の闇の深さも味わってほしい。あわただしさからいっとき離れて、ゆっくりのんびりしていただけたら。そんな風に思いながら、準備をすすめています。

暮らしの中にも「始まり」を見つける

いくつかのスタートが重なったわが家の春ですが、日々の中にも「始まり」がそこかしこに。

庭の草花はぐんぐん育ち、山は芽吹きを迎えています。目覚めたら、庭をぐるりと歩くのが毎朝の習慣です。

毎日同じ場所を眺めていると、ちいさな変化に気付くようになります。つぼみが少しずつふくらんだり、雨上がりの朝は植物全体がぐんと勢いを増していたり。

外から見たら、「ただ庭をぶらぶらしている暇な人(笑)」に見えるのかもしれないけれど、私にとっては、自分の感覚をひらく大切な時間です。

ブロッコリー、ディル、春菊。野菜を摘むのも日課

植物から受け取るエネルギーは静かでダイナミック。「静かでダイナミック」という表現は、一見矛盾するようですが、繊細なエネルギーを感じ取ることで、全体を循環する大きな動きに気付くことができる、とでも説明したらよいのかな?

海で長い時間を過ごしたことのある加奈子にも、そのあたりの感覚を聞いてみたいです。

雨上がりに、ぐんと伸びる野草のみずみずしさ

この春休みは、お客さんがたくさん訪ねてくれました。遠くから訪ねてくれた人たちと一緒に過ごす時間は、わたしにとって「関わりの始まり」でもあります。

たとえば、食卓をともに囲むこと。一緒に台所に立ってもらったり、お手伝いをお願いしたり。手を動かしながらのおしゃべりすると、リラックスした気分になって、ごく自然に関係が育ってゆくように感じます。

料理は、できるだけ「あるもので」つくるようにしています。シンプル….というよりも質素に近い食事ですが、その分「ありのまま」が伝わる気がしています。

庭の植物を食卓に

畑の野菜とおすそ分けのビーツで作ったボルシチ

おみやげのチョコレートのテリーヌにいちごのマリネを添えて

大きなイベントでなくても、ごちそうでなくても、一緒に食卓を囲むだけで、ひらかれてゆくものがありますね。草木が自然に育っていくように、人との関わりも、自然な関わりの中で育っていくように感じています。

再会もまた、ひとつの始まり

再会とは、ふたたび出会うこと。そしてそこから新たな「始まり」が生まれることも。

一昨年、ハワイから訪ねてくれた加奈子がパートナーのベンを連れてきてくれました。みんなで「ザ・和食」の食卓を囲んだこと。話しているうちに「一緒に何かをかたちにしたい」と強く思ったこと。それは、私にとってまたひとつの「はじまり」だったと振り返ってみて思います(それがこの往復書簡として実現しました)。

再会のランチ

ごはんにお味噌汁、納豆と漬物…和食を喜んでくれたのがうれしかった!

加奈子はこの春、ホクレア号での航海がスタートしますね。

暮らしや仕事、人との関わり、気持ちの変化。加奈子の「始まり」についても聞かせてもらえたらうれしいです。

高知の麻子より

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服部麻子

高知の山のふもとで、ちいさな畑、野草茶ブレンド、保存食づくりを楽しむ。 日々のごはんはそのとき「あるもので」作っています。著書に『サステイナブルに暮らしたいー地球とつながる自由な生き方―』『サステイナブルに家を建てる』(アノニマ・スタジオ)(写真 衛藤キヨコ)Instagram:@asterope_tea