注文住宅「無印良品の家」を展開する株式会社MUJI HOUSEは、2023年3月から既存のライフラインに依存しないモバイルユニットを移設・組み合わせることで、インフラの整わない場所でも自由自在に暮らせる移動式住宅の実証実験を展開しています。「ゼロ・プロジェクト」と呼ばれるこのプロジェクトの実用化に向けて、「インフラゼロでも暮らせる家」の実証実験を2024年5月からスタート。その前月には、この家の事業化前のプロトタイプが公開されました。
インフラだけでなく、カーボン、リビングコスト、災害リスクもゼロ
株式会社MUJI HOUSEが開発中の「インフラゼロでも暮らせる家」があるのは千葉県南房総市。
同社取締役であり、商品開発部長の川内浩司さんによると、ここでいう「インフラ」とは、水道や電気、ガスなどの設備基盤のこと。「日本はインフラが優れていて、ほぼすべての住宅に電気が行き届いています。人が集まるところのインフラが整備され、逆にインフラが整備されたところに人が集まる。しかし、人もインフラも少ない場所は価値がないかというとそうではなく、需要は確かにあります。それがコロナ禍ではキャンプブームなどにつながりました。自然豊かで非日常的な環境に、豊かな日常の暮らしを持ち込みたい。そんな願いを叶えるべく、プロジェクトはスタートしました」と、プロジェクトの背景を語ります。
また「インフラゼロでも暮らせる家」は、キャンプブームや都心と地方の多拠点居住といった個人のニーズを叶えつつ、人口減による空き家問題や老朽化した地方インフラなど、社会問題を解決する選択肢の一つとしても可能性を秘めています。インフラがなければその整備や職人、物資運搬なども不要になるため、建設関連の人材不足やSDGsの問題をクリア。トレーラーハウスとしてどこへでも移動ができる仕様であるため、自然災害のリスクも回避できます。
発電所からの電気や水道も使わないためカーボン・ゼロを達成でき、メンテナンス以外の光熱費はほぼかかりません。災害が起きると集中型のインフラが被害を受けますが、自給自足できるこの家には影響がない点にも注目です。災害時にはこの家を集結させ、被災者の避難所としての役割を担うことも見据えているそうです。
水を使わないバイオトイレ、屋根一体型太陽光パネル
まだまだ実証実験中で今後実用化に向けて改善点や変更点があるかもしれませんが、現状における「インフラゼロでも暮らせる家」はユーティリティ棟とリビング棟の2棟建てで、12平米(7畳)ほどの広さ。
リビング棟は居室になっていて、公開されたプロトタイプではシングルベッド2つとテーブル、椅子、そしてトイレがありました。
トイレは水を使わないバイオトイレ。便器の中には微生物が入ったおがくずが入っていて、この微生物が糞尿を攪拌して処理する仕組みになっています。トイレットペーパーはもちろん、卵の殻や魚の骨などの生ごみも処理するコンポストとして機能してくれます。微生物が生きられるようなヒーターの温度管理さえ行えば、フリーメンテナンスで3年ほど何もしなくても問題ないのだとか。
実際にトイレに入ってみると、嫌な臭いがまったくありません。手を洗う水は設置したペットボトルから自動で汲み上げられ、手を洗ったら下のタンクに溜まる仕組みになっていました。
エアコンや照明などの電気は、すべてトレーラーハウスの中で自給自足が可能。一体型の太陽光パネルを屋根と壁に設置し、さらに大容量の蓄電池も積んでいます。これにより、夜や雨の日も日中に溜めた電気を使うことができるのです。
壁の太陽光パネルが肝になっており、電力不足が不安な冬は日差しが低いため、屋根より壁のほうが発電するときもあるそうです。また、屋根には雪が積もってしまいますが、壁は雪の影響を受けないので発電を続けられ、さらには地面に雪が積もった反射光で発電ができるのだとか。
外観も自然環境に溶け込むよう、太陽光ではないところには杉材を使用して、柔らかくて優しい印象にしています。1枚ずつバラバラに張ってある杉材は交換も可能で、設置する地域で余った廃棄素材をパッチワークのように張っていくことができます。デザイン性と汎用性、機能性、さらにはSDGsを両立させた設計です。
セカンドハウスや宿泊施設としての可能性も
設備棟であるユーティリティ棟は、左半分が水循環システム、右側がシャワーとミニキッチンという構造です。水循環システムでは雨水や海水など、水道水以外も浄水し、生活用水や飲み水として使えます。
ミニキッチンは広くはないものの、電子レンジやトースター、温水ポット、冷蔵庫などの生活家電を備えていて、日常と同じ暮らしができるようになっています。
軽量鉄骨構造のトレーラーハウスが多いなかで、この家は地球環境に優しい暮らしを目指して「無印良品の家」と同じ木造住宅にこだわりました。構造の強さや断熱性などは「無印良品の家」同様で、冬でも太陽光が差し込むほど温かい日は、夜でもエアコンがいらないくらい快適に過ごせます。
また、アンテナが通信衛星を追ってWi-Fiを通しているので、リビング棟のウッドデッキにイスとテーブルを出せば、リモートワークもしやすい環境です。週末や長期休暇に使えるセカンドハウスとしてはもちろん、宿泊施設、災害用のトレーラーハウスなど、さまざまな可能性を秘めています。
実用化に向けた試泊希望者も募集中
川内さんによると、販売価格や販売棟数については現時点で未定とのこと。一般的なトレーラーハウスよりも高価格帯になる可能性がありますが、それでもインフラ整備などの費用がかからないので、一般住宅に比べれば圧倒的に低価格になると想定しているそうです。
「30坪もあれば十分に整備できる家なので、富裕層向けではなく、一般の人にとって身近なものにしたい。人口減の地域からは移住先の選択肢としての問い合わせをいただいていますし、震災の際には何棟か被災地に持っていけたら役に立つと感じています」(川内さん)
「インフラゼロでも暮らせる家」は、現在実際に生活しながら課題や要望を収集し、2025年の実用化に向けて、精度を高めるための実証実験を行っています。試泊希望者は特設サイトで募集するそうなので、気になる方はチェックしてみてはいかがでしょうか。
【参照サイト】インフラゼロでも暮らせる家
【参照サイト】インフラゼロでも暮らせる家の試泊 実証実験 特設サイト
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