スイス議会は2026年10月2日の最終採決で、動物に苦痛を与える方法で生産された毛皮の輸入と販売を禁止する、動物保護法の改正を可決しました。こうした毛皮の輸入と販売の両方を禁止するのは、世界で初めてです。
「ニュースで見たけれど、日本の暮らしとどう関係するの?」「クローゼットにある毛皮のコートは、これからどうすればいい?」と感じた方もいるのではないでしょうか。
この記事では、何が禁止され、何が認められるのかという改正の中身と、規制が強化された背景を事実ベースで整理します。最後に、秋冬の服選びや手持ちの毛皮について、私たちにできることを添えます。
今回の改正で禁止されるのは、動物に苦痛を与える方法で生産された毛皮や毛皮製品です。毛皮を一律に禁じるのではなく、「どのように生産されたか」で線を引いている点が、この法改正の特徴です。どのような生産方法が「苦痛を与える方法」にあたるのか、細かな定めはこれからスイス当局が決めます。
苦痛を与えずに生産されたと認められる毛皮は、引き続き扱うことができます。スイス連邦食品安全・獣医局(BLV)は、世界動物保健機関(WOAH)の指導原則を守る毛皮の生産者を外部の認証機関が認証する仕組みを準備しており、2026年末までにその骨子をまとめるとしています。
改正の要点と、スイス政府の発表をあわせて整理すると次のとおりです。
- 禁止の対象:動物に苦痛を与える方法で生産された毛皮・毛皮製品の輸入と販売
- 引き続き認められるもの:苦痛を与えずに生産されたと認証された毛皮
- 認証の基準:世界動物保健機関(WOAH)の指導原則(認証の仕組みの骨子は、BLVが2026年末までにまとめる)
- 政令で定めた期限:輸入は2029年7月1日から、販売は2030年7月1日から禁止
規制は、政令と法律の二段階で進んでいます。まず政令(法律より下位の規則)で輸入と販売の禁止が定められ、2025年7月1日に施行されました。移行期間はその後延ばされ、連邦参事会(スイスの内閣)が2026年6月5日に決めた新しい期限では、輸入は2029年7月1日から、販売は2030年7月1日から禁止されます。一方、今回可決された法律の施行日は、100日間の国民投票請求期間を経てから政府が決める流れです。
「表示する」から「証明する」へ。規制が強化された背景

スイスは、もともと毛皮に無関心だったわけではありません。2013年から、毛皮製品について動物の種類や原産国、生産方法などの表示を義務づけてきました。しかし、その表示義務が十分に守られていないことが課題になっていました。
スイス連邦食品安全・獣医局の検査では、毎年、検査対象となった製品の70%以上で表示に関する問題が指摘されています。表示を求めるだけでは足りないことから、規制は、基準を満たさない毛皮の輸入と販売そのものを禁じる方向へ進みました。
市民の声も後押しになりました。動物に苦痛を与えて生産された毛皮製品の輸入禁止を求める国民発議(通称「毛皮イニシアチブ」)が出され、政府はこれへの対案として、輸入だけでなく国内での販売も禁止する法改正を示しました。今回可決されたのは、この対案です。
「表示して消費者に選んでもらう」仕組みから、「基準を満たさない製品は流通させない」仕組みへ。さらに、国境での輸入だけでなく、国内の店頭での販売まで対象を広げたこと。この2点が、今回の改正をほかの取り組みと分けるポイントです。
日本の暮らしで考えたい、ファーとの付き合い方
今回の改正は、スイス国内での輸入と販売を対象にした法律です。それでも、「毛皮がどこで、どのように作られたか」を問う視点は、日本で服を選ぶときにも手がかりになります。スイスが表示を義務づけてきた「動物の種類」「原産国」「生産方法」は、私たちが買い物をするときに確かめたい情報の目安にもなるでしょう。
リアルファーかどうかを見分けたいときは、まず商品のタグや品質表示で素材を確かめるのが基本です。実物を手に取れる場合は、毛の根元をかき分けてみると、リアルファーは皮(革)に毛が生えているのに対し、エコファー(フェイクファー)は布地に毛足が織り込まれているのが分かります。
一方で、エコファーを選べばすべてが解決するわけではありません。エコファーは動物を使わない一方で、多くはアクリルやポリエステルなど石油由来の合成繊維でできています。洗濯時に細かな繊維くずが流れ出ることや、捨てたあとに自然に分解されにくいことが、環境面の論点として挙げられます。リアルファーには動物福祉の問題があり、エコファーには素材と廃棄の問題がある。どちらにも向き合うべき点があるからこそ、「選んだものを長く使う」という視点が大切になります。素材選びの考え方は、サステナブルファッションの解説記事でも詳しく紹介しています。
すでに毛皮製品を持っている場合、その毛皮はもう生まれてしまったものです。手放して終わりにするより、手入れをしながら着続ける、襟巻きや小物にリメイクして使い方を変える、家族や必要としている人に譲る、といった選択肢があります。売る場合は、毛皮を受け付けるかどうかがお店によって異なるため、事前に確かめておくと安心です。衣類を手放す先の選び方は、衣類のリサイクルショップ活用の記事も参考にしてください。
スイスの法改正は、毛皮を「持つか、持たないか」だけでなく、「どのように作られたものか」を問う流れを示しています。日本の店頭のルールがすぐに変わる話ではありませんが、服を選ぶときの視点は今日から変えられます。この秋冬は、新しいコートを手に取る前にタグの素材表示を一度確かめてみること、そしてクローゼットの毛皮があれば、長く使い続ける方法を考えてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
【参照記事】
- Switzerland becomes first country to ban fur imports and sales(Humane World for Animals、2026年10月5日)
- Importverbot für tierquälerisch erzeugte Pelze: Mehr Zeit für Anpassung der Produktion(スイス連邦政府、2026年6月5日)
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