地域の文化や歴史、代々受け継がれてきた生活などがぎゅっと詰まっている種。近年、種子法廃止や種苗法の改正などにより種子への注目度はあがりつつありますが、その一方で地域で受け継がれてきた多くの種が消滅しているといいます。
そうした状況の中で、伝統野菜の種である固定種の販売を通して、種の魅力や多様性の大切さを発信しているのが、「鶴頸種苗流通プロモーション」です。小学校の頃から野菜づくりに夢中だったという代表の小林宙(こばやし そら)さんは、15歳だった中学3年生の時に今の事業を立ち上げました。
今回は、現役大学生の小林さんに、種の会社を始めることになったきっかけや、種を通して実現したいことについてお話を伺いました。
自宅の屋上菜園ではじめた野菜づくり。その延長で種の世界へ
幼少期から植物や野菜、園芸が好きで、自宅の屋上菜園で野菜を種や苗から育てることに夢中だったと話す小林さん。もともとは、野菜を作って売ることから始めようと考えていたと言います。
小林さん:自分が大切に育てたおいしい野菜を食べてもらいたい。そんな思いから野菜を販売してみようと思いました。そこでまず、中学1年生の時に群馬県に畑を借りて本格的に野菜作りを始めました。
しかし、始めてみてすぐに、野菜を販売するのは難しいことに気づいたと言います。野菜は収穫後すぐに売る必要があります。また保管するスペースや運送の問題などで、中学生の小林さんが1人で商売をするには無理がありました。しかし、その体験がきっかけで、小林さんは野菜の種に注目します。
小林さん:当時は中学生だったので、資金力も時間も限られていたのですが、種なら軽くて単価も安く扱いやすいと思いました。また、ある程度の期間保存でき場所も取りません。これなら中学生の自分でもできると思いました。種を集めていくなかで、その地域にしかない伝統野菜の種の魅力にはまり、種を探して全国の種苗店をまわりました。
種の多様性を守りたい
その後小林さんは、2018年に15歳で固定種の専門店「鶴頸種苗流通プロモーション」を立ち上げます。「鶴頸」は「かくけい」と読み、鶴が舞う姿に形が似ていると言われる群馬県の首(頸)の部分に、小林さんの畑があることが名前の由来です。取り扱っている種は、日本全国の伝統野菜など多種多様です。オンラインショップだけでなく、自然食品系のお店やイベントなどでも販売しています。
小林さん:珍しい種を求めて全国で種探しをしていると、種苗店が閉店してしまっていたり、採種を委託していた方が高齢で亡くなってしまっていたりといった現実に直面しました。野菜は自然に生えてくるものではない。種は人が毎年取り続けないとなくなってしまう。消えゆく種を守るために、まずはそうした種の存在を知ってもらい、育てたいと思う人の手に届けたい。そんな思いで中学3年生の時に起業しました。
野菜の種は大きく分けると「固定種」と「F1種」がありますが、鶴頸種苗流通プロモーションで扱っている種は全て固定種です。
固定種とは、何世代にもわたって同じ形質の野菜がとれるもの。一方F1種とは、1世代だけ特別な形質を示すが、その子は親と同じ形質ではないというもの。今の農業では野菜の見た目が整いやすく、収穫時期を揃えやすいF1種ばかりを農業界さらには消費者が求めています。小林さんはこうした現状に危機感を持っていると言います。
小林さん:日本で代々受け継がれてきた「伝統野菜」と言われる野菜の種は、固定種から作られます。しかしながら、現状では固定種の種だけを流通させる仕組みがほとんどありません。こうした固定種を全国から集めて販売し流通させることで、種が採種される機会を増やして保存していきたい。固定種の種がなくなってしまうことに対するリスク分散や、伝統野菜のことをもっと知ってもらいたいと思っています。
また、タネ袋にも小林さんのこだわりが詰まっています。袋のデザインや記載されている情報は、すべて小林さんがデザイン・執筆しているそうです。
小林さん:袋の裏側には野菜の特徴や植え時、発芽率などの情報とともに、どこで栽培されたのかなどの背景や、どのように食べたら美味しいかなどを載せています。種の特性や育て方などの情報を読み、この種から野菜を育てたいと納得して購入してもらうため、野菜や植物のイメージだけを印象づけるような写真はあえて使っていません。種自体と向き合ってみてほしいです。
今ある種を一つでも100年後の未来に残したい
これまで全国で種を集め、多くの人に種を届けてきた小林さん。先人から引き継がれた固定種を守る活動を通して、未来に語り継いでいきたい想いについて伺いました。
小林さん:野菜も人間も同じ地球上に生きている「生き物」です。生き物として野菜を捉えると、それぞれ生き残るために進化してきた背景があります。種も同じように時の経過とともに変化しています。例えば固定種から育てた伝統野菜も昔と今とでは味や形がまったく同じとは限りません。そうした変化も寛容に受け止め、種の多様性を大切にしていきたいです。人間関係にも同じことが言えると思いますが、お互いが変化しながら100年後も関係性やつながりを残して行けたら、それがいいですよね。
最後に、今ある固定種の種を残していくためにこれから取り組みたいことについて聞いてみると、「データづくり」という答えが返ってきました。
小林さん:種はしっかり人間が介入していかないと、誰にも気づかれないうちに存在が途絶えてしまいます。100年前にどんな種があったのか、もう誰もわかりません。今後はどこでどんなものが消えてしまったのかをデータとして残していくつもりです。そのデータを種の多様性や文化を守るために活用してもらいたいです。
そしてもう一つ、種の多様性を守るためにやりたいこととして、「個人の育種家さんの種を未来に届けたい」と、小林さんは言います。
小林さん:現在種は種苗会社から仕入れていますが、この秋くらいからは、個人の育種家さんが作っている種を取り扱いたいと考えています。明治時代に種苗会社が生まれる以前は、個人の農家さんが自分たちで種を作るのが当たり前でした。実は大手種苗会社の創業者も元は農家で凄腕の育種家さんだったと聞きます。市場に出回らない珍しい種もあるはずです。一度そこに立ち返ってみるのもいいかなと思っています。
編集後記
よりよい種をつくろうと企業による種の改良は、野菜を作る農家だけでなく消費者にも安定的においしい野菜が食べられる生活を与えてくれました。一方で、それまで個人の農家が採種をくり返すことで継承されていた種の一部は消えてしまいました。小林さんはそうした種苗会社の存在も多様な種の世界の一つだと語ってくれました。
また、「世界から消えてしまうことと、日常から消えてしまうことは違う」と小林さんは続けます。実は種苗会社が種の改良を行う際の「親」として種を保管していることが多いそう。そして、日本の古い種たちが親となり、掛け合わせでできた新しい品種が、海外でその土地にあった野菜として収穫されている。その話を聞き、小さな種の一粒が持つ力に驚きました。
動物と違い人間だけが、地球上から「生物」が絶滅しないように、必要な量だけを消費する、適切に保護する、多様性を受け入れるといった行動ができる。小林さんは、人間が持つそうした「エシカル」な部分を信じて、種の多様性を守っていきたい言います。
そんな小林さんが率いる鶴頸種苗流通プロモーションは、珍しい種を販売する種苗会社という枠を超え、人と地域の過去と未来をつなぐプラットフォームです。まずは初心者にも育てやすいと小林さんおすすめの豆類や葉物野菜から、固定種の種を蒔いて伝統野菜を育ててみませんか。種の多様性を守るために私たちができることからはじめてみてください。
今回ご紹介した「鶴頸種苗流通プロモーション」の商品を実際にご覧になれます!
Life Huggerでは、日本のソーシャルグッドな情報を世界に発信しているZenbirdと共に、2022年9月9日(金)に渋谷のTRUNK HOTELで開催予定のイベント「MoFF2022」にて、キュレーション展示「100年先へ作り手の想い伝える」を行います。この展示において、鶴頸種苗流通プロモーションの種をご紹介いたします。実際に手にとってご覧になりたい方は、ぜひMoFF2022にお越しください。
MoFF2022について、詳しくはこちらをご覧ください。
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【参照サイト】鶴頸種苗流通プロモーション
【関連ページ】On the path to preserve Japan’s open pollinated seeds diversity|Zenbird
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