能登半島地震の発生から6カ月以上が経ちました。被災した奥能登地域では今も3市町で断水が続く地区があり、引き続き多くの人が不自由な生活を余儀なくされています。また、今年は2011年3月11日の東日本大震災から13年の年でした。被災した人、避難先にいる人、支援した人、被災地を想っている人……さまざまな場所でたくさんの人が災害や被災地と向き合っています。
今年3月、東日本大震災の経験・教訓を後世に伝えていくため、災害や防災・減災をテーマとした「3.11川柳コンテスト」(主催:公益社団法人シビックフォース)が開催されました。集まった3,155作品のうち、最優秀賞や優秀賞などを受賞した川柳の一部をご紹介します。被災した地域の現状や備える大切さについて、「川柳」を通してもう一度考える機会にしてみませんか?
“備え”のあり方を考える
3.11川柳コンテスト「一般の部」で最優秀賞を受賞したこちらの川柳「ご近所と 日頃の挨拶 命綱」は、いざというとき命が助かるためには日頃からのご近所づきあいが大切だと伝える一句です。
1995年に発生した阪神・淡路大震災の際、倒壊した建物から多くの人が救出されましたが、助けられた数のうち、なんと全体の「77.1%」は、地域住民から助け出されたというデータがあります(内閣府資料より)。消防や警察など公的機関による救助が来るまでには時間がかかるため、それまでの間で地域の人々が助け合う”共助”の視点が不可欠。今年1月の能登半島地震でも消防や警察にたくさんの救助要請が寄せられましたが、「数が多すぎて要請に応えきれなかった」と悔やむ消防団員の証言もあります。
救助が来るまでの間に失われる命を減らすためにも、日頃から周囲の人とのお付き合いやコミュニケーションはとても大切です。
また、優秀賞を受賞したペンネーム・イブキングさんの作品「婆ちゃんは 防災マップが 散歩道」も、日頃からの備えの大切さを表現した一句。災害発生時の行動計画が示された「防災マップ」には、災害発生時に利用すべき避難経路や避難所、防災施設などの情報が記載されていて、全国の自治体などが発行しています。いつもの散歩道も“避難ルート”と意識しながら歩いている「婆ちゃん」は、なんだか頼もしく感じます。お孫さんに語りかけているのかもしれません。
他にも入賞作品の中には「引っ越しは ハザードマップ 見て決める」や「『念のため』 リュックに詰める 安心を」、「想定外 備えがあれば 想定内」など、普段から災害を意識している人たちの行動が垣間見られる作品があります。被害の予測や防災対策に使用する目的でつくられたハザードマップは、津波や洪水の影響を受ける恐れがある場所や活断層が近くて地震に対する備えが必要であることなど、自分が住む地域のリスクを確かめられます。また、災害の規模に応じて避難すべき場所が明記されていることも多いので、具体的な避難先を知っておけば迷うこともありません。
何気ない日常の中で「いざというとき」を想像しながら行動することで未来は変わるかもしれません。
被災の経験や教訓を伝える「かたりべ」
川柳コンテストで受賞した作品の中には、実際に被災を経験し、その教訓を語り継いでいる人たちからのメッセージもあります。優秀賞を受賞した川柳「語り部と なって救える 命の灯」は、おそらく被災の経験を語り継いでいる人の川柳だと想像できます。「語り部(かたりべ)」とは本来、昔から語り伝えられる昔話や民話、神話、歴史などを現代に語り継いでいる人のことを指しますが、災害の被害にあった地域において、その経験や教訓を語り継ぐ人のこともまた「かたりべ」と呼びます。
災害の教訓は国が主宰・調査する公的なものから、災害記念碑や民俗伝承・口伝、アーカイブなどまでさまざまで、この中でも「かたりべ」は個人の被災体験に基づくものが多いかもしれません。しかし、災害から生き残った人たちが置かれた状況下でどう行動し、何を感じたか、今後同じような災害への備えをどう考えるかといった体験談は、いつの時代も誰にとっても大きな教訓となるはずです。
「震災の 語り部となり 13年」「次世代に 伝えるこの日 3.11」など、長年震災の経験を伝え続けてきた人や若い世代からの作品も見られます。
東北の経験を能登へ
「東北に 灯るひかりが 照らす能登」は特別賞に選ばれた作品。2011年3月11日に起きた東日本大震災は2万人以上が亡くなる未曾有の災害となりましたが、あれだけの被害を受けながらも多くの地域が今、少しずつ復興を遂げています。これは紛れもなく人々の努力の賜物ですが、真っ暗だった場所に灯りがともりはじめる、その光景は今まさに大変な状況の中にある能登の被災地の皆さんを照らすことができるかもしれない。そんな想いがこもった川柳です。
【参照ページ】3.11川柳コンテスト事務局 (Civic Force)
新海 美保
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