アパレル業界のニュースでは、いまや「サステナビリティ(持続可能性)」というキーワードを目にしない日はない。環境や地域、人の働き方、文化などが「将来に渡って、機能を失わずに続けていくことができることシステムやプロセス」を指す言葉だが、その捉え方は幅広い。
たとえば、環境配慮素材を使っているブランドや、プラ製のレジ袋を廃止し紙袋を使っているブランドはサステナブルか。現時点では、いかに真新しくキャッチーな環境配慮素材でものづくりをし、他のどのブランドよりも量を売り、利益を得るか、といった考えで作られたものも多く、生産システムの上での競争も終わっていない。はたして、本当にそれが良い未来に向かっていると言えるだろうか。
そんな現状を足元から作り替えようとしているブランドが、このほどリリースされた。天然ゴムを発泡してつくられた、土に還るソールブランドGENN(ジェン)だ。今回は代表の齊藤裕介さんを取材した。
子供たちのためにたどり着いた世界初の技術
従来、ソールづくりのスタンダードであった石油由来の素材を一切使わず、100%天然由来の成分で発泡素材を生成するGENNの技術は、世界初のものとなる。
GENNというブランド名は、“GENERATION TO THE NEXT”の頭文字からきている。15年という長い年月をかけた技術開発の背景には、子供たちの姿があった。
「GENNの開発担当者たちは15年前から靴産業に携わっていましたが、当時、子供の長靴はPVC(ポリ塩化ビニル)で作られたものが多かったんです。軽くて価格も安いということから普及していたのですが、とても滑りやすい。滑ったり転んだりする子供たちの姿を見て、彼らのためにもっと安全な長靴を作ろうと考えたことがGENNのはじまりでした。」
そうして機能性を探究していくうちに、ゴムの木の樹液から作られた天然ゴムという自然素材の可能性を見いだした。さらに、それまで天然ゴムの課題とされていた重さ、摩耗や熱への弱さ、粘着性を解決するために研究を重ね、それらすべてを解決する国際特許技術を生み出すまでに至る。
広く大きな地球環境ではなく、すぐ側にいる子供たちを想ってものづくりを突き詰めていった結果、自然と地球にもやさしいものになった。大量生産・大量消費の概念が崩れてきつつある今、人にも地球にもやさしい普遍的な価値を持ったプロダクトに時代が追いつく形になったのだ。
機能性と環境配慮を両立する
環境負荷の低い素材を使ったからといって、履き心地が損なわれるわけではない。GENNはもともと「子供たちが安全に履ける」という機能的な観点から開発を始め、機能性と環境配慮の両方にこだわりつづけている。
「靴は通常、靴の内側に入れるインソール、衝撃吸収として中間に入れるミッドソール、地面に触れるアウトソールという3つのソールで成り立っており、それぞれのソールで求められる機能は違います。グリップ力や耐摩耗というタフな機能が求められるアウトソールや軽量性やクッション性を求められるミッドソールは、環境配慮との両立が特に難しく、まだ目立った取り組みがされていない印象です。」
GENNは、EVA(エチレン酢酸ビニル)のソールと比較すると、ドライな環境では3倍、氷上では5倍のグリップ力を持ち、EVAソールと比較して2.6倍、ラバーソールと比較すると6倍の耐摩耗性を叶えている。また、発泡させることで、ラバーソールと比較して2.6倍の軽量化にも成功したと発表している。
これらはミッドソールとアウトソールの機能を兼ね備える仕様であり、資材の数や製造にかかる工程の削減によっても、環境負荷を抑えることが期待できる。
他ブランドとは「競争」ではなく「共創」をしていく
しかしながら、毎月のように新素材のサステナブルシューズが世に出ている中で、ソールのみにこだわるのはなぜなのか。
「いま、靴の大半は埋め立て処分されています。分解されず地中に残り続けた靴は、揮発性有機化合物(VOC)や温室効果ガスを放出し、健康被害や気候変動の原因となっています。その中で、最も分解されにくく健康や環境への影響が大きいパーツがソールなんです。」
その事実を受け、年間250億足とも云われる靴のソールを変えていくことが、問題解決への近道になると考えた。
「GENNがソールのインフラとなり、できる限り多くのシューズブランドに使用してもらう。環境に配慮したソールを選んだことをきっかけに、他のパーツも環境に優しいものを選択する、そしてそれが他のブランドにも繋がっていくという循環を作れればいいと考えています。この技術を自分たちだけのものにしようとは考えていません。みんなのものにして、共創していきたいんです。」
GENNがシューズブランドに提案するメニューは、セミオーダーとオーダーメイドの2種類。ともにブランドごとに、ソールの密度や機能性、重量まで細かく調整できる。さらにオーダーメイドでは、自らのブランドに合わせてデザインまで変更することが可能だ。あくまでパーツのひとつとして、その姿を変幻自在に変えながらブランドに寄り添っていく。そこに、GENNの「共創」の姿勢が見えた。
確実に次世代の未来を形作っていく
そんなGENNが目指すのは、2030年に貧困地域での地域雇用の創出と、教育機関の設立をすることだ。
「もともと子供たちがきっかけではじまったGENNですが、ブランド立ち上げにあたり、次世代に対してもっとできることがないかと考えました。そして、靴が履けない子供が世界に3億人いるという事実を知ったんです。まず、そのような環境にいる子供たちに靴を届けたい。さらに、現地の大人たちにソールづくりを担ってもらうことで地域雇用を生み出し、それらを子供たちが継承する環境を整えられるよう教育機関を設立することで、次世代の持続可能な未来を創っていきます。」
GENNは、世界中の子どもたちが健康で豊かな自然とともに歩む世界を目指して、その一歩を踏み出した。彼らの一歩が多くのシューズブランドの一歩に繋がり、アパレル業界のものづくりが本当の意味で「サステナブル」になることを期待したい。
【参照サイト】GENN 日本公式サイト
【参照サイト】GENN 公式インスタグラム
IDEAS FOR GOOD 編集部
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