植物と魚を同時に育てることができるアクアポニックスは、環境負荷が少ない栽培方法でありながら生産性も高いとして日本でも取り入れる企業や生産者が増えてきています。そんなアクアポニックスですが、最近では家庭菜園やガーデニング、またインテリアなど趣味として楽しむ人も増えてきているようです。
そこで本記事では、アクアポニックスの基本的な知識から植物と魚の選び方、はじめる前に知っておきたいポイントを見ていきます。家庭でも取り入れやすいキットも紹介しますので、これからアクアポニックスをはじめようと検討している方はぜひ参考にしてみてください。
アクアポニックスとは
アクアポニックスは、水産養殖の「Aquaculture」と、水耕栽培の「Hydroponics」からなる造語で、魚と植物の生産を同じシステムで行う新しい循環型農業です。
発祥地であるアメリカでは、アクアポニックスで栽培した野菜についてUSDA(オーガニック認証)の取得が認められていて、少ない手間でオーガニック野菜が育てられるとして世界的に普及が拡大しています。
植物工場やビニールハウスなどで利用されることが多いアクアポニックスですが、システムの規模や形はさまざま。農薬や化学肥料を使用しないので家庭菜園でも安心・安全な野菜と魚を育てることが可能になります。
アクアポニックスの仕組み
アクアポニックスは、
- 飼育している魚の排せつ物をバクテリアが分解
- 魚の飼育に使用した水分が配管を通して植物に供給される
- 供給された水分を植物が栄養分として吸収
- 植物が吸収した水分は濾過されて水槽に戻る
という仕組みになっています。基本的な管理は魚のエサやりのみで、肥料を使用しなくても野菜などの植物を育てることができます。
アクアポニックスを始めるメリット
アクアポニックスは家庭菜園を行う人にとってもメリットがたくさん。一般的に言われている環境や生産効率の利点をはじめ、家庭菜園としてはじめる人にとってどのようなメリットがあるか、詳しく見ていきましょう。
環境負荷が少ない
農業では作物の病気や害虫の防除のために農薬や化学肥料を使用します。もちろん、これらの農業資材は適切に使用すれば大きな問題はありませんが、土壌汚染や二酸化炭素の排出など持続可能な農業を推進するには、可能な限り減らしていくことも重要です。
アクアポニックスでは、一般的な土耕栽培のように農薬や化学肥料を使用しないため、土壌汚染などの心配がなく環境負荷が少ない農業と言えるでしょう。
また先述したとおり、アクアポニックスは、植物によって浄化された水が水槽に戻ることで清潔な状態を保ちます。そのため、通常の魚の飼育と比べると水の交換を頻繁に行う必要がありません。これにより飼育管理の手間が省けるだけでなく、土耕栽培と比べて水の使用が少なく済み水資源の保護にもつながります。
生産効率に優れている
アクアポニックス関連サービスを展開する株式会社プラントフォームが行ったレタス栽培では、通常60~90日かかるところアクアポニックスを利用することで最短25日で収穫可能なサイズまで育てることに成功しています。このように栽培期間が短く、肥料代もかからないことから生産効率に優れていると言われています。
さらに、アクアポニックスを植物工場などの屋内で利用すれば天候に左右されることなく野菜の生産を行うことが可能になり、豪雨などで農作物がだめになってしまうといった心配もありません。
土づくりや除草が不要
アクアポニックスは土耕栽培で必要な土づくりや除草の手間を省きつつ、比較的簡単にオーガニック野菜を収獲することができます。土を使用しないため、害虫が付きにくく連作障害の心配もありません。
子どもと一緒に楽しめる
アクアポニックスは子どもの教材としてもおすすめです。通常、植物の状態が悪いときには農薬や肥料などで対処しますが、魚も同時に育てているアクアポニックスではそういうわけにはいきません。野菜にとっては大丈夫であってもその周りにある生態系にどのような影響があるのかということを実体験として学ぶことができます。
デメリットは?
アクアポニックスは植物と魚を同時に育てるという性質上、栽培できる植物や飼育する魚の種類は限定されてしまいます。また、農薬を使用することができないので、万が一植物に病気が出た場合は失敗に終わることも。
家庭菜園として気軽に楽しみたいという方であればそれほど気にする必要もないですが、本格的にアクアポニックスをはじめたい場合は、農業と養殖についての知識や技術が必要になってきます。アクアポニックスを行うためのキットは高額なものが多く初期費用がかかるので、慎重に検討してから導入するようにしましょう。
アクアポニックスで育てられる植物と魚
ここからは、アクアポニックスで育てられるおすすめの野菜や魚、それらを選ぶ際の注意点を見ていきましょう。
植物
アクアポニックスではレタスなどの葉菜類やハーブ類から、トマトなどの果菜類や根菜類、花き類など基本的に植物であればどんなものでも育てることができます。しかし、生育の早さや栽培難易度を考慮すると最初はレタスやルッコラといった葉物野菜、ハーブからはじめてみるのがおすすめです。アクアポニックスに慣れてきたら果菜類や根菜類に挑戦してみるのもいいでしょう。
魚
アクアポニックスでは植物・魚・微生物の3つが快適に過ごせる環境を作ることが重要です。水温は22℃前後で管理することになるため、基本的に冷水を好む魚を育てることはできません。アクアポニックスで育てる魚を選ぶ際は、水温や水質の変化に強い魚を選ぶようにしましょう。
アクアポニックスの養殖魚としては、飼育難易度が低いティラピアやコイなどが人気ですが、趣味として行う場合は金魚やメダカ、タナゴなどの小型の観賞魚が飼いやすくておすすめです。
アクアポニックスを始める際の注意点
微生物の定着に1カ月ほどかかる
植物と魚にとって快適な環境を作るには、水槽の中の微生物を増やしてあげる「循環立ち上げ期間」が必要です。アクアポニックスの導入直後は植物を植えずに魚だけを飼育し、1カ月ほどかけて微生物を定着させましょう。
急激な水質悪化に気を付ける
魚は急激な水質悪化が起こると死んでしまうことがあります。魚を水槽に入れたばかりの頃は微生物の数も少なく水質が安定していないので、魚の飼育数を少なめにしてエサやりなども最小限に行うようにしましょう。
植物の根をきれいに洗う
植物が枯れてしまう原因は肥料や日光不足などが考えられますが、その他にも植える苗に土が残っていると根腐れして枯れてしまうことがあります。しっかりと苗の土を洗い流してから植え付けるようにしましょう。
家庭で楽しめるアクアポニックスキット
アクアポニックスのシステムは自作することもできますが、初めての方には設置や組み立てを行うだけですぐにはじめられるキットがおすすめです。
コンパクトに設置できるものからインテリアとして置いておきたくなるものなど、さまざまなタイプのアクアポニックスキットが販売されているのでそれぞれの特徴を見ていきましょう。
アクアスプラウトSV トータルセット
画像は、株式会社アクポ二から引用。
アクアスプラウトSV トータルセットは、アクアポニックスの普及に向けた事業を手がける株式会社アクポニが販売するスターターセットです。
魚を飼育するための水槽や植物を育てる培地をはじめ、魚のエサや水温計などアクアポニックスをはじめるのに必要な道具11点がセットになっています。あとは育てたい植物の苗や魚を準備するだけでアクアポニックスをはじめることができます。
公式サイト:株式会社アクポニ
RECTANGLE(レクタングル)25L
画像は、株式会社アクポ二から引用。
レクタングル25Lは屋外・屋内どちらでも設置できるアクアポニックスです。「魚の飼育」「植物の栽培」を楽しむと同時に、おしゃれな見た目でインテリアとしても楽しむことができます。
本体のほかに培地となるハイドロボールと水中ポンプが付いています。その他に必要な道具は自分で揃える必要がありますが、見た目にこだわりたいという方におすすめのキットとなっています。
公式サイト:株式会社アクポニ
brio35(ブリオ35)

画像は、株式会社ベムパートナーから引用。
ブリオ35はカナダ人デザイナーが手がけた屋内専用の家庭用のアクアポニックスシステムで、細部にまでこだわりを感じられるデザイン性と機能性の高さが特徴です。
水槽上部から水が流れ落ちる仕様になっているので自然に水中に酸素を供給することができ、さらに水面に流れを作り出すことで良好な水質を保つことが可能に。
従来のアクアポニックスで必要だった酸素供給用のエアーポンプを設置する必要もなく、長期に渡り水槽内の環境を維持することができます。
公式サイト:株式会社ベムパートナー
ウォーターガーデン

画像は、楽天市場から引用。
ウォーターガーデンは今回紹介する中でも特にコンパクトなタイプのアクアポニックスです。
小さく邪魔にならないサイズ感なので子ども部屋やキッチンハーブの栽培など置く場所を選びません。アクアポニックスをはじめてみたいけどスペースがないといった方にもおすすめの商品です。
- 商品の詳細を見る:楽天
自作する場合
アクアポニックスは、100円ショップやホームセンターで手に入る道具で自作することも可能です。昆虫用の飼育ケースやペットボトルなどを利用するのでコストもそれほどかかりません。
自作してみたいという方はHONDA「アクアポニックスをやってみよう」を参考にしてみましょう。
アクアポニックスで循環型農業にトライしてみよう!
生産性と持続可能性の両立を実現できるとして世界的に注目が集まるアクアポニックス。キットを利用すれば簡単に導入でき、自宅で手間をかけずにオーガニック野菜を栽培することが可能になります。家庭菜園に興味があるけど畑がないという方や虫が苦手という方にもおすすめです。ぜひ挑戦してみてください。
【参照サイト】:株式会社アクポニ
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角家小百合

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