日本初の家事代行サービスとして1983年に創業以降、富裕層向けに最高品質のサービスを提供し続け、継続率96%という圧倒的な実績を残してきた「ミニメイド・サービス」。同社は現在フランチャイズ加盟店も含めて全国2,000名以上のスタッフを抱える家事代行サービス大手企業として業界を牽引しています。
今回、カジフル(現・Life Hugger)編集部ではミニメイド・サービスの創業社長であり、全国家事代行サービス協会の会長も務める業界の第一人者、山田長司氏に、家事代行サービス業界の現状や同社が顧客から高い信頼を獲得し続けている理由などについて詳しくお話をお伺いしてきました。
家事代行サービスの利用者、家事代行スタッフとして働いている方、家事代行サービス会社、全ての方にとって役に立つ内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。
1982年、アメリカで成長している家事代行サービス会社を訪問し、家事代行サービス業の将来性を確信、1983年に東京都世田谷区にて日本初となる家事代行サービス業(現在のミニメイド・サービス株式会社)を創業。富裕層に特化した高品質なサービスを強みに現在ではフライチャイズ含めて売上26億円、従業員数2,000名以上の家事代行サービス大手企業に成長し、業界を牽引する。「家事代行サービス認証」を手がける一般社団法人全国家事代行サービス協会の会長、「整理収納アドバイザー」資格で知られるNPO法人ハウスキーピング協会の理事長も務める。
インタビュー目次
家事代行サービス業界の変化をどう見るか?
Q:現在の家事代行サービス市場をどう見ているか?
現在の市場規模は800億円程度だと思いますが、経済産業省も成長市場として注目しています。家事のマーケットは主婦による無償労働が多くなっており、内閣府の推計によれば、家事の無償労働を時給換算した際の市場規模は130兆円となっています。この市場が少しでも外注化に向かえば、とても大きな経済効果が生まれると考えています。
私は1982年にアメリカに家事代行サービスを見に行きましたが、アメリカでは1970年代ぐらいからすでに女性の活躍推進が始まっており、共働きで稼ぎ、子育てはベビーシッターに、家事はメイドサービスにといった形で家事の外注化が進んでいました。いずれ日本でもそういう時代が来るのではと思い家事代行サービスを創業しましたが、あれから35年が経過し、ようやく日本もそういう時代になってきたというところです。
Q:マッチング型の新興サービスも増えてきているが、どう見ているか?
従来のビジネスモデルとは違う「マッチング」という形で個人のスキルを活かせるプラットフォームが登場してきたのはある意味では驚きですが、日本のマーケットにその仕組みが合うかどうか、今が試されているときだと思います。
はじめて家事代行サービスを利用する人にとってみれば、一番の不安は「どんな人が来てくれるのか?」という点につきますが、マッチングの場合は安く利用できることと簡単に頼めるというメリットがあります。一方、利用者の方が安心できるようにするための方法を色々と独自色を出しながら進めていく必要があります。どのように安心感を提供できるかが課題となるでしょう。
Q:マッチングの場合はスタッフの質をどこまで担保できるかが課題だと?
利用者側からすると、「人」が全てなのです。会社が誠実かどうか、スタッフがしっかりと教育を受けているかどうか、そしてその人が変わらず担当してくれるかどうかが大事です。頻繁にスタッフが変わるのは一番嫌がられますし、複数のスタッフが出入りすると情報流出リスクも高まります。
Q:戦略特区におけるフィリピン人の家事代行サービスはどうか?
フィリピン人の家事代行サービスもとてもよいと思いますが、現状は特区法に基づいているため規制が多く、なかなか手を出せません。ただし、将来的には自宅介護などもできるように住み込みで採用してよいという方向に変わっていけば、高齢社会においてはとてもよいのではないかと思います。やはり老人が一人で暮らすのは不安ですから、そこに泊まり込みで一緒にいてくれる方がいるととても有り難いですよね。住み込みが認められたら弊社も取り組みたいですね。
Q:利用者の裾野が広がるなか、富裕層以外への展開は?
裾野が広がったとしても弊社がそこに参入することはないですね。裾野を広げるよりも、むしろ富裕層の中での属性を明確にし、例えば弁護士や女性経営者など、より細かい属性に対してその方々が望むサービスを追求していきたいと考えています。家事代行サービスからハウスマネージメントサービスへと進化させていきます。これは代行機能から、お客様に代わって、家庭内の管理を行うことができる能力を持ったME(Minimaid Engineer)がサービスを行うということです。4月から始まります。
優秀なスタッフを採用し、定着させる秘訣は?
Q:「人が全て」とのことだが、スタッフ採用のポイントは?
採用は肝ですね。弊社の場合は子育てが一段落して、家事経験が10年ぐらいある30代から40代の主婦の採用に力を入れています。その方々に10年、20年と長く働いてほしいと考えています。今では20年以上勤続しているMEも多く、60代、70代もいますが、彼女たちはずっとMEとして仕事をやっているのでとてもよく体が動きます。あとは忍耐力が大事なので、採用時には耐性テストも行っています。弊社では誰でも採用しているわけではなくしっかりと人を選んでいるため、採用コストをかなりかけています。
Q:採用したスタッフがなかなか定着しないという話も聞きます。
採用してもスタッフがすぐに辞めてしまう会社はだめですね。最初の研修だけでは本当の力量はなかなか身につきません。研修を受けただけで家事のプロになれるかというとそんなことはないのです。せめてスタッフとして1年は働かないと、お客様に本当に満足してもらえているか、期待を超えているかといった点で実感を持つことができません。弊社では、新人MEは3名のMEで行くところにペアとして入ります。すると、先輩の動きがとにかく早いので、そこで多くを学べます。もちろんOJTでの指導もあります。
なかには簡単なビデオで研修だけして「明日から行ってきて」といったような会社もありますが、そうなると働いているスタッフも不安ですし、ミスをしたくないので余計なことをするのはやめようと思い、お客様に対して「プラスアルファ」を提供しようという発想にはなりません。
家事においては研修で学ぶマニュアルも大事なのですが、その通りにできるのは当たり前であって、お客様はそれ以上を求めているのです。
我々は家事のプロですから、サービスを提供する以上はお客様と対等にやりあえるぐらいプロとしての自信を持っていかないとだめなのです。そのためには、プライドを持って気後れせず仕事ができるまで育てる必要があります。教育をしないとスタッフは自分の感覚で仕事をしてしまいますし、自信がないから「出入りさせてもらっている」という気持ちでやってしまう。それではいつまでたっても家事代行サービスが「お手伝いに来てくれるおばちゃん」として下に見られてしまいます。お客様からかけがえのない存在と言われる努力をしていかなければならないのではないでしょうか。
Q:スタッフに長く働いてもらうために取り組んでいることは?
働いている人が一番安心して働ける状況を作ることですね。弊社では会社がMEのことをとてもしっかりと守っています。弊社は富裕層のお客様ばかりですが、ケガのための保険はもちろん、万が一クレームが入ってもすぐに営業担当が飛んでくるなど、「会社があって自分たちがあるんだ」と思える環境を整えています。
スタッフを管理するという発想ではなく、彼らの声をしっかりと聴き、彼らが働きやすいように支援してあげることが大事です。弊社ではMEに対するアンケートも毎年取っています。MEからの会社に対する要求はきりがありませんが、それらに対して会社がどのように応えていくかが大事です。
会社として何を優先すべきかという話になると、お客様を一番にあげる会社も多いのですが、我々の業界は労働集約型なので、働いている人を一番大事にして、スタッフがやりがいを持っていいサービスを提供しようと思える集団にすることが重要なのです。そして、成長する機会を仕事だけでなくキャリアプランも用意して取り組めるようにしていくことが大切です。
Q:スタッフを大事にするからお客様も大事できるということですね。
そうです。時給がもらえるから仕事に行くというスタッフと、今日もよいサービスをしてお客様に喜んでもらおうと仕事に行くスタッフとでは、仕上がりにはっきりと差が出てしまいます。家事代行は技術だけではなく行く人の気持ちが全て仕事に映し出されるのです。
特に家の中では言葉遣いやマナーも重要ですし、お客様の要求にいつも笑顔で応えられるかなども大事です。また、スタッフがお客様のニーズに気づき、自ら判断して「ここが気になっていたので、いかがいたしましょうか?」といった積極的な提案をできるかどうかも大事です。会社やお客様から言われたことだけをやるのではなく、自分で気が付いたことを提案できるかどうかでもお客様の満足度は大きく変わってきます。
Q:スタッフは自分の判断でお客様にギフトを購入できる決裁権もあると聞きました。
はい、「エンゲージメント」という制度があり、年に1回だけ、3,240円までは本人の決済でお客様にプレゼントをすることができます。ご主人の命日、飼っていたペットの命日など、家に出入りしている人だけが知っているピンポイントのタイミングでプレゼントをします。
他にも、例えばお客様が冷え性でいつも「足が冷たい」と言っていたのでお客様が大好きなキャラクター付きのソックスをプレゼントしたら、いつも喜んで履いてくださっているといった話もあります。こうしたお客様に喜ばれた成功体験は「スマイルニュース」という仕組みで社内に共有しており、そのなかでも優れたものは表彰なども行っています。こうした取り組みができるのは、弊社が定期利用のお客様のみでやっているからでもあります。
どのように顧客の期待を超えるのか?
Q:どのようにお客様の「期待を超える」サービスを実現するのか?
弊社にはお客様それぞれのカルテがあり、長く利用してくださっているお客様の情報がぎっしりと詰まっています。そこには「テーブルは綺麗に拭く」「床は裸足で歩いても気持ちよいレベルまで固く絞った雑巾で徹底的に拭く」「キッチンはピカピカになるまで磨く」など、お客様ごとのこだわりが書いてありますので、そのこだわりの部分は徹底的にやり、そのうえでさらなる「プラスアルファ」の作業をどうすれば作り出せるかを考えます。
弊社では、ME全員がどうすればこの「プラスアルファ」を提供できるかを考えながら作業しています。そのためには、お客様から要望をいただくまえに、自分でお客様が何を求めているかを察することも大事です。弊社では「見る」ではなく「観察する」の「観る」を使っていますが、室内を、そしてお客様をよく「観る」のです。
留守宅の場合はお客様がいないため期待を直接聞くことはできませんが、室内がいつもより散らかっていれば「忙しいのかな」と思い、帰ってきたときにいつも以上に気持ちのよい状態にしておこうと考えるなど、その心がけが大事です。
留守宅のメモ一つとってもそうです。「本日は○○が担当しました」だけではなく、例えば家に飼い犬がいれば「ワンちゃんがこんな動きをしていました」と一言添える、「今日は少し時間が作れたので靴磨きもしました」とプラスアルファを加えておく。こうするだけで、留守宅ノートを見るのが楽しみで帰って来るお客様に言っていただけるようになります。MEとしてもそこにお客様からの返事が書かれていると嬉しいですよね。弊社ではこうしたメモの書き方の勉強会までやっています。ノートを書くというのは意外に難しいんですね。あまり時間もかけられませんし。
家事代行は単なる作業ではなく、快適を作りだす仕事なのです。料理であれば、食卓に料理を並べるだけであれは誰でもできますが、弊社では「食卓に幸せを運ぶ」というテーマでやっています。だからこそ、料理一つとっても質が違います。
弊社にはスマイルプランというMEの目標を共有する仕組みがあるのですが、そこには「毎月A様の宅はご夫婦で仕事をしていてすごく忙しいので、帰ってきたときにストレスがないように、体が温まる料理を作ってあげたい」といった目標が書いてあるんですね。それを見ると、うちのスタッフはお客様のことを思い、よく考えていると思います。
このように、お客様にどれだけ寄り添えるかが大事です。お子様が風邪で困っていれば薬を買ってくる、電球が切れていればその種類を調べて買ってくる、などそのひと手間をかけるかどうかです。
また、こうしたMEの取り組みを会社がしっかりと把握し、評価できるようにME一人一人とのかかわりを持っているかどうかも重要です。いくらMEが頑張っても会社が評価してくれなければ意味はありません。会社がプロとしての仕事を認めてくれるからこそ、MEもいつもいいサービスを提供したいと思えるのです。
Q:顧客満足度と継続率の高さの秘訣は?
弊社の顧客満足度が高いのは、会社の教育によってMEの「プラスアルファのサービスを提供したい」という気持ちを強くしているからです。
弊社ではサービスを「品質」ではなく「人質(じんしつ)」だと言っています。「高品質」=「高人質」であり、いかに質の高い人を教育できるかにかかっているのです。また、人の質には「心の質」も伴っていなければいけません。お客様に喜んでいただこうと考え、何をすれば喜んでもらえるのかを発見できる能力が大事です。その力を身につけてもらうために、弊社もMEに対しては惜しみなく支援をしています。入社時はもちろん入社後も継続的に研修を行いますし、整理収納アドバイザーやクリーネストなどの資格取得補助も行っています。これにはコストもかかるので大変なのですが、やっていくことでMEは自信がつきます。
また、継続率が高いのは同じMEが長く行っているからですね。長いお客様だと30年ぐらいのお付き合いになりますので、ご主人がなくなったり、ご子息が結婚されたりと、家の歴史とともに歩んでいる部分があります。だからこそご主人の命日にお供えをすることもできます。
家事代行サービス業界の課題とは?
Q:家事代行サービス業界全体としての課題は?
新しい会社も増えてきていますが、一番大事なことはそこで働く人たちが共通の価値観を持てるような理念を掲げることではないでしょうか。弊社では「いつもピカピカ」という分かりやすい理念を掲げていますが、これは「自分自身を磨く」ということです。自分を磨けばそのぶんだけお客様によいサービスを提供できるからです。
このように価値観を共有できる人たちの集まりにしていかないと、せっかく縁があってスタッフを採用しても長く働いてもらえず入れ替えばかりになってしまい、いつまでもよいサービスを提供することができません。よいサービスを提供するためには、ビジョンに共感して一緒に長く勤められる人を増やしていくことが大事なのです。スタッフをむやみに採用して無理に拡大するよりも、お客様との関係を大事にしながら前進していくことが大事なのではないでしょうか。
また、これから参入する会社についてはしっかりと自社でノウハウを蓄積できる仕組みを作ったほうがよいですね。感覚で教えるのではなくマニュアルを用意して、そこに体験によるノウハウを積み重ねていく。「こうすれば時間が短縮できる」「この事故にはこう対処する」など、そうしたノウハウの積み重ねは後になって活きてきます。また、そのように教育をしっかりとするためにも、安い値付けはしないほうがよいでしょう。
Life Hugger読者へのメッセージ
Q:家事代行サービスの利用を検討されている方へメッセージをお願いします。
まずはスポットなのか定期なのか、掃除をしてほしいのか料理を作って欲しいのかなど自分の利用目的を明確にして、あとは予算を決めて、その範囲内で条件に合う会社を見つければよいのではないかと思います。
そして、依頼をする際は年齢などもリクエストしたほうがよいですね。母親のような人に来てほしいのか、若く元気な女性に来てほしいのかなど、希望をしっかりと出したほうがよいです。家事代行サービスを使い慣れていないとそうしたリクエストを出してはいけないのかと思う方もいるかもしれませんが、希望を出せば、応えられないとはっきり言ってくれる会社もありますし、対応してくれる会社もあります。
また、最近ではウェブサイトやSNSなどを通じてどんどんと自社の情報を発信してアピールすることができるようになったので、私から見ても表現が上手だなという会社はたくさんあります。しかし、それが実際に行われるかどうかは別の問題です。とにかく、人を大事にしていない会社はだめです。最終的にはそこが家事や掃除の質の差として出てくるので、スタッフの教育をちゃんとしている会社を探してほしいですね。
インタビュー後記
日本の家事代行サービスの第一人者として業界をリードしてきた山田社長の言葉には、その一つ一つに経験に裏打ちされた重みがありました。取材を通じて強く感じたのは、家事代行サービスにおいて最も大事なのは「人」だという点です。ミニメイド・サービスでは高品質なサービスを実現するために人材育成に多くのコストをかけており、だからこそ高い価格でもお客様から選ばれ続けているのだということがよく分かりました。家事代行サービスがより広く普及していくためには、業界全体としてサービスの品質が向上することが必要不可欠です。今回の取材ではそのためのヒントを数多く頂きました。家事代行サービスを利用する側にとっても、提供する側にとっても学びの多い内容となったのではないでしょうか。
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