善意はなぜ「ずれる」のか。熊本地震で、買い物ができること

熊本で地震が起きたと知って、「何か送ろうか」と考えた方は多いのではないでしょうか。けれど今、水や衣類を個人で送ることは、現地でほとんど歓迎されません。熊本県が、個人からの支援物資を原則として受け付けていないからです。

一方で、特別な準備がいらず、今日から始められて、しかも報道が減ったあとも続けられる支援があります。熊本のものを買う、営業している店を訪れる、ふるさと納税の寄付先に選ぶ——「応援消費」と呼ばれる方法です。

そしてこの「続けられる」という性質は、単に気軽だという話ではありません。過去の災害のデータをたどると、善意が向かう場所と支援が必要な場所は、しばしばずれます。そのずれを小さくするうえで、消費という手段は意外なほど強いのです。

2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とする地震が発生しました。気象庁マグニチュードは7.1(暫定値)、震源の深さは16kmです。宇城市と八代郡氷川町で最大震度7を観測し、有明・八代海に津波注意報が出されました。横ずれ断層型の地殻内地震で、日奈久断層帯の活動とみられています。気象庁は同日、この地震を「令和8年熊本地震」と命名しました。

善意は、必要な場所から「ずれる」ことがある

熊本県は8月1日更新の公式情報で、個人単位・小口での救援物資の受け入れは行っていないと明示しています。企業・団体からの提供についても、原則として新品・未開封品かつ段ボール単位の大口に限り、専用フォームからの事前申請が必要とされています。

冷たい対応に見えるかもしれませんが、理由は明確です。量も質もばらばらな物資が届くと、受け取り・仕分け・保管・そして廃棄のすべてに人手と場所が必要になります。被災直後の自治体に、その余力はありません。

過去の災害では、その負担が具体的な金額として残っています。1993年の北海道南西沖地震では、全国から届いた古着を保管するために奥尻町がテントを新設し、1億2,000万円を要しました。1995年の阪神・淡路大震災では約100万個の小包が集中し、2004年の新潟県中越地震では長岡市に10tトラック約450台分の物資が到着して、福祉部局の職員が本来業務に手が回らなくなったと記録されています。届いた善意が、受け取る側の仕事を増やしてしまう構造があるのです。

もうひとつ、あまり知られていない指摘があります。内閣府の阪神・淡路大震災教訓情報資料集は、被災地内の飲食店や小売店が復旧するにつれて、ボランティア等による食料・物資の無償配布がそれらの営業を妨げるという問題が指摘されたと記しています。つまり支援のフェーズが進むと、無償で配ることと、地元で買うことが、静かに競合しはじめます。

ボランティアも同じです。熊本県社会福祉協議会は7月29日に県災害ボランティアセンターを設置して事前登録を始めていますが、実際の募集は市町村ごとに行われ、居住地の制限や1日あたりの定員が設けられています。すでに締切に達している自治体もあります。行きたい気持ちを一度手元に置いて、募集を待つこと自体が支援になります。

「行かない」という配慮が、被害を広げたことがある

善意のずれは、送る側だけの問題ではありません。「迷惑になるから行かない」という配慮も、ずれることがあります。

2016年の熊本地震のあと、観光庁「宿泊旅行統計調査」の延べ宿泊者数は、九州各県で次のように動きました。

2016年5月の延べ宿泊者数(前年同月比)
大分 −39.4%
長崎 −30.7%
鹿児島 −20.5%
宮崎 −18.8%
熊本 −10.6%
観光庁「宿泊旅行統計調査」をもとにした分析より

震源を抱える熊本県の落ち込みが、いちばん小さいのです。隣接する大分県は、その4倍近く落ちています。

理由はふたつあります。熊本県には復旧にあたる関係者の宿泊需要があり、6月には前年同月比+13.2%とプラスに転じました。一方で周辺県には、その需要もなく「九州は今は危ない」というイメージだけが残りました。内閣府は、2016年5月8日時点で九州全体の宿泊キャンセルを約75万人と記録しています。

象徴的なのが別府市です。ほぼすべての宿泊施設が営業を継続していたにもかかわらず、約8割のキャンセルが発生したと、当時の調査担当者の記録として紹介されています。

震度は震源から離れるほど確実に小さくなります。けれど予約のキャンセルは、距離とともに減っていきません。正確な情報が届かないかぎり、「熊本」「九州」という言葉だけで一括りに判断されてしまうからです。

※写真はイメージです

そして今回も、同じことが起きはじめています。日本サステイナブル・レストラン協会(SRA-J)は8月2日、熊本市内で大きな建物被害がなく営業を再開している加盟店にも、予約のキャンセルが相次いでいると発信しました。加盟店から寄せられた情報という限定はつきますが、10年前と同じ形の被害が見えています。

応援消費は、その「ずれ」を直すための選択

「応援消費」という言葉が広まったのは、2011年の東日本大震災のあとです。渡辺龍也氏(東京経済大学)は、自粛するのではなく被災地の産品を積極的に購入することで復興を支援する動きとして、これを整理しています。

この研究で興味深いのは、支援の続き方の違いです。寄付・募金、物資提供、ボランティアといった従来型の支援は時間とともに大きく落ち込む一方、応援消費は震災の2年後もおよそ半数の人が続けていたと分析されています。2020年のコロナ禍でこの言葉が再び注目され、朝日新聞が同年12月に行った調査では、1,581人のうち52%が応援消費の経験ありと答えています。

応援消費が強いのは、金額が大きいからではありません。すでに毎日やっていることの行き先を変えるだけなので、意志の力をあまり使わずに済みます。だから続くのです。

ただし、無条件に良いものとして扱うべきでもありません。寄付付き商品では、売上のうちいくらが実際に寄付されるのかが明示されていないことも多くあります。ブームが数週間で終われば、生産体制を整えた事業者だけが取り残されます。逆に、生産能力が戻る前に注文が集中すれば、被災した現場をさらに疲弊させることもあります。選ぶときに「どこに、どのくらい届くのか」が書かれているかを見るだけで、かなり違ってきます。

熊本のものを買う、営業している店を訪れる

具体例を挙げます。熊本県南関町の竹箸メーカー・ヤマチクは、7月31日から売り上げを全額寄付する「チャリティーアウトレット」を始めました。塗料の色むらや染みがある箸と菜箸を、ファクトリーショップ「拝啓」で販売しています。本来なら規格外として扱われるものが、支援の原資になります。ふだんの買い物と、廃棄されかけたものを選ぶことと、被災地支援が、ひとつの行動に重なっています。

飲食店については、道路や公共交通、店舗の営業状況を確認したうえで利用する、という順番が大切になります。店を選ぶことは、その先にいる生産者や地域の食文化を選ぶことでもあります。

「食べる」を支援に変える取り組みも動いています。熊本市の株式会社ふく成は、被災地の行政職員・災害派遣職員に届ける「後方支援弁当」の協賛募集を始めました。2026年8月1日から10日まで、1食500円で1日100食(1日あたり約5万円)を予定し、1社5万円を目安に協賛を募っています。取りまとめは宇城市在住の相藤春陽氏(HARUlab.)、調理は熊本県「食のみやこシェフズアカデミー」の修了生が担います。自らも被災しながら対応にあたる職員は、被災者向けの物資を自分のために使いにくい立場にあります。地域の料理人が調理を担うことで、支える人に食事が届き、同時に飲食の仕事も生まれる仕組みです。

※写真はイメージです

買い物で貯まったポイントを支援に回す仕組みもあります。ユナイテッドアローズは2026年8月1日から当面の間、会員が貯めたUAマイルの寄付受付を実施しています。100マイル=2円で換算し、同社が認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパンへ寄付する形で、災害緊急支援「空飛ぶ捜索医療団ARROWS」の熊本での活動に充てられます。夏物衣料を中心とした衣料品の寄贈も予定されています。すでに支払い済みの買い物が、あとから支援になる形です。

ふるさと納税を「返礼品なし」で使う

ふるさと納税も、応援消費の入口になります。さとふるは、お礼品を受け取らない災害支援寄付の場合、申込金額の全額が自治体に届き、さとふるが自治体から手数料を得ることはないと明記しています。

ここは正確に押さえておきたいところです。「全額が届く」のは、返礼品を受け取らない災害緊急支援寄付の場合の話です。返礼品ありの通常のふるさと納税や、他のポータルサイトでは同じ条件とは限りません。窓口ごとに確認してみてください。

令和8年熊本地震の災害緊急支援寄付には、8月4日9時時点で216,339,160円(13,556件)が集まっています。自治体別では八代市が45,171,902円、宇城市が24,721,449円、熊本市が17,273,580円、氷川町が17,233,053円、益城町が6,027,851円となっています。金額の多寡だけで判断はできませんが、寄付先を自分で選べるということは覚えておきたいポイントです。報道量の多い自治体に自然と集まりやすいなかで、どこに届けたいかを自分で決められます。

税控除の仕組みにより、控除上限の範囲内であれば実質2,000円の自己負担で支援できる点も、続けやすさにつながります。

クラウドファンディングの側でも動きがあります。株式会社ボーダレス・ジャパンが運営するFor Goodは7月29日、掲載手数料0円の緊急支援サポートプログラムの提供を開始しました。最短1日でプロジェクトを公開できる仕組みで、熊本県八代市もふるさと納税for Goodの掲載自治体となっています。

それでも、お金で直接支援したいときは

消費という形にこだわらず、まず現金で支援したい場合の基本の窓口は義援金です。

熊本県の「令和8年熊本地震義援金」は、受付期間が2026年7月29日から10月30日までの予定です。肥後銀行、熊本銀行、ゆうちょ銀行に口座が用意されており、同一金融機関の窓口振込であれば手数料は免除されます(ATMは有料)。日本赤十字社も7月31日から10月30日まで受け付け、全額を義援金配分委員会に送ると発表しています。熊本市は7月30日から10月31日までと期間が少し異なりますので、こちらも確認しておきたいところです。

支援したい対象を選びたい場合は、団体ごとの募金という選択もあります。被災した女性・母子や声を上げにくい方を支えたいならジョイセフの緊急募金、避難所環境の改善や応急対応ならピースボート災害支援センター、住まいを失った方へのシェルターなら名古屋工業大学のインスタントハウス基金(北川啓介教授が開発したクーラー付きのインスタントハウスが氷川町や八代市で設置されています)、地域で活動する団体を横断的に支えたいならBRIDGE KUMAMOTOの支援金があります。

報道が減ったあとが、本番

ここまで挙げた選択肢は、どれも今日できることです。ただ、応援消費の最大の弱点は、ブームが短いことにあります。

2016年の熊本地震で、熊本県の宿泊需要が平年並みに戻ったのは同年10〜12月期でした。半年かかっています。そして熊本城の復旧は、内閣府が2017年時点で被害総額634億円・20年の計画と記していたものが、その後さらに長期化しています。熊本市の復旧基本計画によれば、重要文化財の建造物13棟と再建・復元建造物20棟のすべてが被災し、石垣は全体の約3割にあたる約23,600㎡が崩落や膨らみ・緩みの被害を受けました。

数週間で戻るものと、数十年かかるものが、同じ地域に並んでいます。一方で報道は、たいてい数週間で減っていきます。この時間軸のずれが、いちばん埋めにくいところです。

だからこそ、消費という手段には意味があります。義援金を一度届けることは尊い行為ですが、それは一度で完結してしまいます。「今度の箸は熊本のものにする」「次の旅行先の候補に入れる」——年に何度か思い出すだけの関わり方は、報道が消えたあとの長い時間に、自分の支援を置き直してくれます。

特別なことをしなくていいのです。買うものを、少しだけ選ぶ。それを覚えておく。それが、いちばん長く続く支援のかたちかもしれません。

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