淀川に自生するヨシからできたサステナブルな新素材とは?特徴や魅力を取材

アトリエMay

大阪の淀川に自生する「葦(ヨシ)」は、昔から、簾(すだれ)や葦簀(よしず)などに使われてきた植物で、高槻市道鵜町の河川敷には、甲子園球場の約18倍の広さで群生しています。

ヨシは多年生植物で、春に新芽を出し、秋に穂が出て、冬には次の新芽に備えて立ち枯れます。今回は、そのヨシを刈ってサステナブルな紙や糸の商品開発をしているアトリエMay代表の塩田真由美(※以下塩田さん)さんからお話を伺いました。

大阪の淀川に自生する「葦(ヨシ)」とは?

ヨシ

ヨシは湿地帯に生息し、空気中の二酸化炭素を吸収して地球温暖化を防いだり、土や水の中から窒素やリンなどを吸い上げて成長するため、川の水質浄化や環境保全にも繋がっている植物です。また、ヨシが生えている周りを見回すと、鳥や魚、植物の宝庫になっており、生態系ができているのがよくわかります。このように、ヨシが広がるヨシ原には自然を循環させるという、大切な役割があります。

アトリエMayとヨシの出会い

アトリエMay

アトリエMay代表 塩田 真由美さん

アトリエMayはヨシ紙を活用した照明やステーショナリー、ヨシ雑貨など、「ヨシをヨシとする商品企画」をコンセプトとしたデザイン事務所です。

2007年にギャラリーカフェとしてスタート。塩田さんはギャラリー勤務の経験があり、アート作品にも関心が高かったことから、好きな和紙に関する事業を始めたと言います。

そんな折、鵜殿ヨシ原研究所の所長が、製紙メーカー「山田兄弟製紙」が作った、淀川のヨシを使ったヨシ紙の販路を探して訪ねて来られ、販売を手伝ってくれないかとオファーを受けたのが、ヨシを扱うきっかけになりました。

「大阪は和紙の産地でもない。ならば地元の淀川のヨシを広めるのは面白いかなと思って」と始められたそうです。

ヨシ紙を扱うことによって、地元の方々の手で守られてきたヨシが、地場産業の衰退と共に生育にも影響が出ている現状や、海外の安価な輸入品が多くなり、職人さんが生き残れないなどの課題が見えてきたそうです。

「サステナブルと言わずとも、昔は正しい環境保全のカタチがあったのですよね。それが今は崩れ、生態系にまで影響している」と塩田さん。

葦簀や簾以外の可能性に目を向け、産業としてヨシをデザインすることを視野に入れ始めます。そこで塩田さんが意識したのが、循環する仕組み作りをデザインすること。物のデザインを作るだけではなく、仕組みそのものをデザインすることこそが必要で、ヨシが必要になる世の中にならないと、ヨシを守れない。ヨシに産業的な価値を生み、ニーズを作ることの大切さを再確認します。

ヨシ繊維を使った糸「reed yarn®」ができるまで

アトリエMay

そうして試行錯誤して生まれたのがヨシ繊維を使った糸の「reed yarn®(リードヤーン)」です。竹繊維研究所から「竹から繊維ができるならヨシでも作れるのではと思って、琵琶湖のヨシで試作品を作ってみたら成功した」と声をかけられたことから始まりました。

ヨシ繊維ができるまで
1. 刈ったヨシをローラーに掛けて伸ばす。割って広げる
2. 水・灰汁などに漬け込み、取り出して水に浸ける
3. 再度ローラーに掛ける
4. 繊維化する
5. 長繊維と短繊維に分別する
6. 繊維をほぐす
7. 乾燥させる

この方法で、一日約50kgのヨシ繊維作りが可能ですが、ヨシの繊維はちぎれやすいため、工程には手作業も多く、とても手間がかかります。

アトリエMay

しかし、「手間がかかっても、繊維を取り出すと可能性が広がる。だから手間の価値があると感じている」と塩田さんは言います。

アトリエMay

このヨシ繊維とコットンを混紡したものが、ヨシ糸「reed yarn®」。ヨシは自生するので、種をまいたり水をあげたりする必要もなく、肥料も必要ありません。また、コットンが抱えている、安い賃金で搾取されているという労働問題も発生しない、サステナブルな糸が誕生しました。

アトリエMay

このヨシ糸を使ってヨシふきん、ヨシケット、ヨシストールのほか、手ぬぐいなどが商品化され、Tシャツやセーターの試作も製作中です。また、さまざまな分野とコラボレーションすることで新たなヨシ製品の可能性も広がってきています。

また、ヨシの残渣(ざんさ)を堆肥化する、穂の部分をスワッグに活用するなど、循環型の仕組みも広がっています。

ヨシを大阪から世界へ

アトリエMay

「アトリエMayが目指すのは、ヨシを通して、産業と環境、文化を循環させること」と塩田さんは言います。

ヨシを守るという仕組みを作り、経済で回しながら、自然や文化を繋いでいけるような事業を目指し、活動で得た資金の一部をヨシ原の保全に活用。ヨシ糸を使えば使うほど、環境に貢献できるビジネスを展開しています。

2025年に開催予定の大阪・関西万博に向けて、ヨシ糸で地域の活性化を目指し、大阪から日本、世界へと広げていきたいと考えています。

編集後記

コットンの栽培には、大量の水と農薬が必要であり、それが環境破壊の原因になってしまっています。また、最近では労働力の搾取も問題となっています。サステナブルな素材を選ぶことは、持続可能な未来へと繋がります。「reed yarn®」は、そんな問題を解決できる糸口になりそうで、これからも注目です。

【参照ページ】アトリエMay
【参照ページ】これからのファッションはおしゃれ&サステナブル!私たちが取り組めるアクションとは?

The following two tabs change content below.

mia

旅するように暮らす自然派ライター/オーガニック料理ソムリエ ・アロマ検定一級 | バックパックに暮らしの全てを詰め込み世界一周。4年に渡る旅の後、AUSに移住し約7年暮らす。移動の多い人生で、気付けばゆるめのミニマリストに。 ライターとして旅行誌や情報誌、WEBマガジンで執筆。現在は自然に沿った生き方を実践しながら発信中。地球と人に優しい暮らしのヒントをお届けします。